国交省調査「マンション修繕積立金」が10倍の事例も…!積立金・大幅節約奥の手「大規模修繕の修繕周期12→18年化」完全攻略法【マンション管理クライシス】

近年、分譲マンションでは、物価高などを背景に、毎月の修繕積立金を大きく値上げするケースが増えてきている。所有者にとっては、維持費の上昇は痛手だが、修繕費用を節約する手段として注目されてきているのが、大規模修繕工事の修繕周期の延伸だ。(*記事内容は編集部が保証するものではありません。実際のマンションの状況に合わせて情報を参考にしてください)

住宅ジャーナリストがいう。

「国交省の調査によれば、分譲時からの最終的な増額幅は平均で約3.6倍。最大で10倍を超える例もあったようです。そのため積立金値上げの合意できず、積立金が足りなくなるケースも相次いでいるとのことです」

大規模修繕「12~15年の工事周期」は絶対ではない

このような、修繕積立金の高額化の大きな要因の一つに、短いスパンで計画されている大規模修繕の工事周期の問題がある。

「現状の『大規模修繕は12~15年周期で実施を』という考え方自体、建築物の経年劣化への対処という点で合理性に欠ける」

こう指摘するのは、一級建築士でマンションコンサルタントの須藤桂一氏だ。

「そもそも『大規模修繕』とは、外壁修繕や屋上防水、各住戸のバルコニーの防水やシートの張替えなど、仮設足場を使う工事について、高額な足場工事代を考慮して、周期を決めて1度にやっておきましょう、というものです。また、マンションはワンオーナーのビルと違い、意見集約の手間などもあり、1回の計画で済ませるというのは理解できます。

業界から推奨される12~15年周期の根拠は、国交省が、長期修繕計画(長計)策定のガイドラインで『修繕周期は12~15年』が計画の“記載例”として示されているだけで、この周期には法的な拘束力もありません。

また10年ごとに外壁タイルの全面打診検査が義務付けられ、10年超の3年以内に工事の予定がある場合は、調査が不要という法令があることから逆算しての数字でもあります。

要は、国の都合で、実際の経年劣化の進行度合いに関係なく、自動的に外壁修繕の周期が決まり、そのついでに、他の修繕項目や設備更新の周期も決まってしまうのです。結果的に多くの修繕項目において本来の寿命を余して修繕してしまうので、非常に不経済で無駄な工事が増える要因にもなっているのです」

ちなみに、現在の国交省ガイドラインの「12~15年周期」の記載例は2021年に改訂されたもので、それまでは「12年周期」だった。

しかし、いまだに、修繕事業者の売上に有利な、12年という短い周期での工事を推奨されることも少なくない。また、長計の見直しの際にも、管理組合があらためて注文を付けないと管理会社や設計コンサルタント会社は、お伺いなしに「12年周期」で作成してしまうことも多い。

このような短いスパンでの大規模修繕は、巨額な工事費をまねき、修繕積立金の値上げや、工事中の住民負担や理事会業務の負担の増大に繋がるため、注意が必要だ。

商業ビルやホテル、公共施設は「大規模修繕」自体やらない場合も…

前出の須藤氏が続ける。

「大規模修繕の周期が12年というのはやはり短すぎるし、中には10年でやるところもあり、明らかに修繕事業者の営利色が強い。

自分の所有物としての生活空間であるからしっかり保全したいという感情は理解できますが、実際には、修繕周期を延ばしても、日々の生活でその差は実感できず、現実的な問題もほぼ起きていません。これは修繕の軽視ではなく事実なのです。

そもそも、商業ビルや学校、病院、役所、公共交通施設やホテルなどの施設において、マンションのように周期を決めて、大規模修繕を実施する施設自体、ほぼありません。仮に12年周期でタイル外壁の修繕をしていたら、街中の至る所で足場を建ててビルが囲われているはずですが、実際にはそうした光景の多くがビルではなくマンション偏っているのです」

人の通行量を考えれば、マンションより格段に商店街のビルの方がタイル剥落による事故のリスクは高いはず。それなのにプロが管理する建築物は、周期的な大規模修繕工事を実施しない方が多数派なのだという。実際のリスクは一般人が考えるよりはるかに少ないと言えそうだ。

実はコスパの悪いマンションの「予防保全」

「もちろん、ビルや公共施設など、マンション以外の建物も、修繕工事を周期的にはしていないだけで、必要に応じた修繕は必ずしています。というのも、計画的な修繕をするマンションは、問題が起きる前に対処しておこうという『予防保全』という考え方ですが、一方で、マンション以外のビルや公共施設は『事後保全』という考え方です。こちらは建物にダメージが起きた時、もしくは起きそうな予兆が出たタイミングで修繕をするというものです」(須藤氏)

予防保全の考え方は、自動車や飛行機といった「動くもの」に適しており、万一の事故が、人命や大きな2次被害に繋がる場合だ。構造物でも例えば、橋梁の支柱が崩壊した場合など、二次被害が広がりやすい公共インフラでは有効とされ、一見、実直で真面目に思えるが、マンションにその考え方は当てはまらないと須藤氏はいう。

「マンションでは、起きた後に取り返しがつかないアクシデントは、地震や火災くらいですが、耐震性や防火仕様は建築時の仕様に依存するため、一般的な修繕ではもとから改善できません。

一方で、エレベーターなど電気設備系や、ポンプなどの水周りも法定点検や任意点検があり、基本的に前触れなしに突然、機能しなくなることはありません。雨漏りも原状回復に100万円を超えることはまずなく、台風など天災なら保険でカバーできる場合も多い。

そもそも、マンション共用部の故障やトラブルというのは、原状回復までの少しの間だけ我慢すれば済むことがほとんどです。こうした一時的な不都合の発生自体を無くそうとすると、コストは格段に高くなってしまいます。

むしろ、必要に応じてこまめに修繕する方が、劣化の進行速度も抑えられ、結果的に安くつく。こちらの考え方の方がはるかに経済合理性は高いので、プロが管理するビルや公共施設は『事後保全』の考え方をとっているのです」(同)

UR都市機構は「概ね18年以上」の周期をHP上で明記

このようなスタンスで修繕周期を計画しているのが、UR都市機構のマンションだ。

同機構では、計画的な修繕周期を『概ね18年以上』とHPに明記している。タワマンでも管理組合によっては分譲時に作成された長期修繕計画にとらわれず、実際の劣化具合に応じて1回目の大規模修繕を15〜18年超でやるところも多い。

「総戸数が多いだけに、組合員からさまざまな知見が集まりやすい」(マンションコンサルタント)という側面もあるようだ。ちなみに超高級マンションである、「六本木ヒルズレジデンス(03年築)」も、いわゆる大規模修繕が実施されたという報道はない。

では、修繕周期は何年程度が望ましいのか。近年になってようやく、短すぎた修繕周期を見直す動きが出ており、15年や18年などに延ばす組合も増え始めている。

外壁工事の実施は義務ではない

ここで、工事周期を延伸する場合、義務である10年毎の外壁の全面打診調査を受けての工事はどうなるのか、という疑問がわく。しかし、実は工事の実施自体は義務ではない。義務なのはあくまで調査の報告だけだ。

全面打診調査を安価なドローン調査で済ませて危険個所だけ補修し、足場を組む大掛かりな修繕を18年目に行うという形式も、ジワリと増えてきているのだ。

須藤氏が続ける。

「私がコンサルしている多くの管理組合物件では、部材や設備も一般的なものですが、平均の修繕周期は18年です。これは、一律に私が18年周期で決めているわけではなく、マンションごとの状態を調査して適正な時期に大規模修繕を実施した結果、その周期の平均が18年になったというもので、中には15〜16年や20年目以降に行ったマンションもあります。もちろん建物の状況に合わせて行なっている結果なので、問題や不満は出ていません」

ドローン調査直後と14年目の中間修繕で「18年周期」に

近年、高耐久部材を使うことで18年周期を公式に推奨するマンションも分譲されているが、実際には一般的な材料グレードでも、須藤氏が指摘するように修繕周期を18年に伸ばすことは十分可能だ。また、15年だと、ドローン検査の5年後の大規模修繕の際に、修繕箇所を確定するための打診調査をあらためて実施することになり、やや二度手間になる。

大規模修繕工事専門の「富士防」の工事担当者もいう。

「建物形状等によっても異なりますが、正直な印象としては一般的なスペックであっても18年周期で問題ないケースがほとんどでしょう。ただ、その前提は、虫歯治療のように、こまめに傷んだ箇所を修繕することです。18年周期にするなら、10年目や14年目に中間時修繕をするのがお勧めです。そうすることで、経年劣化の進行を抑えつつ、修繕周期を伸ばすことが可能になります」

それでは、大規模修繕工事を18年周期にした場合、毎月の修繕積立金はいくらが妥当なのか。

現在、大規模修繕の費用相場については、複数の業界関係者によると、一般的なファミリータイプのマンションでは戸あたり税込みで120万~130万円程度だという。これは、既報の通り、キックバックなど、不適切取引を排除した金額だ。

修繕積立金は、大規模修繕以外にもエレベーターの更新工事やインタホンリニューアルなど、設備更新費やその他の小修繕工事にも使われる。編集部が取材を基にシミュレーションしたところ、一般的なマンションでは、次に掲げる表のように月1万円でも余剰が出ることがわかった。

なお、さらにこれに駐車場収入が一部、ないしは全て入る。機械式駐車場の場合は維持費と更新費の合計で月1万2000円程度見ておいて、余剰が出れば管理組合の収入になる。

実際の将来的なコストは物価変動がどうなるかで決まる。

18年周期、「1万円」の“長期修繕計画”

上記のシミュレーションでも漠然とした不安を感じる人もいるだろう。「心配性な人はこう考えてみてはどうか」と提案するのは、住宅ジャーナリストだ。

「例えば戸あたり月1万円の修繕積立金を徴収している50戸のマンションが大規模修繕の周期を12年から18年周期に伸ばした場合、単純計算では3600万円の余剰が出る計算になります。仮に中間の9~10年目や必要になったタイミングで300万~600万円程度かけて傷みやリスクのある部分に塗装や補修工事を実施し、他の設備更新費などに使ったとしても、2000万円程度は余ると考えられます。

これは、分かりやすく言うと、逆に『2000万円をかけて18年周期から12年周期にするだけの根拠や必要性があるのか』ということになります。この金額をかけて一体、何を防ぐというのか。修繕を6年、遅らせたことによって、原状回復費や2次被害額を入れて、2000万円以上の損害になるマンションのトラブルは考えにくい。仮に最上階で雨漏りしたとして、補修個所が分かれば数十万円。屋上防水をやり直したとしても50戸程度なら500万円程度で収まります」(住宅ジャーナリスト)

仮にもし、お金が足りなかったとしても、1~2年延ばせば、相応に積立金は貯まる。しかし、積立金を引き上げてしまうと、毎月の負担+維持費増加によって全住民の資産性にも影響が出るダブルパンチになってしまう。

「『積立金を値上げしないと管理不全や廃墟になる!』などの情報を安易に信じてはいけません。そんなマンションは積立金を全く徴収していないなど、例外中の例外です。不安なら築50年超で積立金1万円のマンションが実際に廃墟になっているのかどうか確認すれば答えは分かるでしょう」(同)

無駄のない大規模修繕工事の実施と、修繕積立金は必要な額に留めておきたいものだ。

つづく記事『屋上防水の“漏水事故発生率”は25年でたった4%…学会論文で判明「マンションン修繕工事」は無駄ばかり!工事しないと“廃墟化”は大ウソだった』では、修繕事業者が自社の利益のためにやりたがる工事の、本当の必要性について検証する。

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