東日本大震災の被災地では、土地の所有者を特定できず、復興事業に支障が出るケースが相次ぐ。地権者が長年、土地の管理を放棄したり、登記手続きを放置しているためだ。ただ、こうしたケースは、被災地に限った話ではない。民間シンクタンクの東京財団は、所有者不明の土地が30年後には、全国で300万ヘクタール以上になると試算。宮城県四つ分の国土が「消える」勘定だ。
岩手県では、復興事業用地のうち、地権者が分からないケースなどが約4000件に上る。
事態を打開しようと国会も土地収用を迅速化する改正復興特区法を23日に成立させたが、効果は未知数。東京財団は「被災地で起きている土地利用の難航は将来、全国でも顕在化していく」と警告する。
東京財団は(1)民有山林約170万ヘクタール(2)共有林野100万ヘクタール(3)耕作放棄地約40万ヘクタール-で今後、管理放棄や権利放置が起きると試算した。
要因は、家族関係の希薄化、財産に対する権利意識の変化などさまざま。中でも「最大の原因は、旧態依然とした土地登記制度」(東京財団)だ。
わが国では土地の登記手続きに強制力がないため、山林などでは、資産価値が相続コストを下回るとして登記手続きを放置する例が増えている。
採算が分岐する土地の資産価値の金額を1件当たり50万円と設定した場合、今後、登記されない可能性がある東北6県の山林面積と割合は表の通り。全国では30年後、個人所有山林の25%が所有者不明になるとみられる。
東京財団の平野秀樹上席研究員は「被災地で仮設住宅暮らしが長期化している原因も、さかのぼれば土地制度の問題に突き当たる」と説明。「人口減少時代に突入した今、この問題を放置し続けると、国土の所有者不明化、無価値化、死蔵化が全国規模で拡大していく」と予測する。