国産ネクタイ減少、クールビズで大打撃…業界恨み節「国挙げてのイジメだ」

国内のネクタイ生産量が激減している。
 丸10年で3分の1にまで落ち込んだ。製造・卸業者でつくる組合は、国が打ち出した「クールビズ」の影響で、職場でネクタイをしめないスタイルが定着したためだという。クールビズは環境省が平成17年に打ち出し、官民の職場で夏季のノーネクタイ、ノー上着のスタイルが普及した。当初期間は6~9月の4カ月間だったが、23年からは5~10月と半年にまで延び、ビジネスでは晩秋や冬にもノーネクタイの姿が見られるようになった。業界への打撃は深刻で、組合は「ここまで定着すると、反対もできない。TPOに合わせてネクタイをしてほしい」と訴えている。(張英壽)
 ■関西などの組合は解散
 東京ネクタイ協同組合の調査では、国内の生産量は平成13年には約1740万本あったが、その後減り続けた。19年には1千万本を切り、最新統計となる23年には13年の3分の1となる約570万本にまで減少している。また輸入でみても、13年は約2670万本だったが、23年は約2350万本に減少している。調査は2年に1度実施しており、今後24、25の両年を調査する。
 同組合はネクタイ製造・卸しの31業者で構成。山田哲男事務局長は「少子高齢化で、働く人の数が減りネクタイをしない世代が増え、需要が下がっていた。そんな中、クールビズが追い打ちをかけた」と指摘する。さらにIT業界をはじめ年中ネクタイをしない人も増えている。ネクタイと言えば、かつてビジネスと切っても切れなかったが、そんな一般的なイメージは過去のものになっている。
 こうした状況について、関西の業界関係者は「国をあげてネクタイいじめをしている」と悲痛な憤りの声をあげた。
 山田事務局長は「ネクタイはビジネスマンにとって必要不可欠。ネクタイをすることで気持ちもぴりっとする。日本では背広にネクタイというのは定番」と強調する。
 東京ネクタイ協同組合の上部団体として日本ネクタイ組合連合会がある。かつてはその下部に、東京ネクタイ協同組合のほか、関西、名古屋、福岡の組合があったが、需要の低下で、自主廃業に追い込まれる業者が続出。東京以外の地方組合は解散し、現在に至っている。関西にあったのは、京阪神などの業者による関西ネクタイ商工業協同組合。関係者によると、かつて約80業者が加入していたが、16業者にまで減り23年に解散した。その後は任意団体として活動している。
 クールビズを環境省が提唱したのは、小泉純一郎政権時の平成17年から。「クール」(涼しい)と「ビジネス」を合わせた造語だった。同省地球温暖化対策課国民生活対策室によると、「室温28度でも快適に過ごすことができるライフスタイル」と位置づけ、6~9月の4カ月間の「国民運動」として始まった。
 クールビズは本来、服装を指す言葉ではないが、室温28度で夏を乗り切るには、必然的にネクタイなし、上着なしという服装をすることになり、この軽装が官公庁、民間企業に広がった。そして一般的には、ノーネクタイ、ノー上着のスタイルが「クールビズ」を指すと理解されるようになった。
 ■「廃止」の陳情も
 クールビズ期間の6月の第3日曜日は父の日で、プレゼント用などで、「一番売れる日」(山田事務局長)だった。ネクタイ製造業界は大きな打撃を受けるようになった。
 生産減に苦悩したネクタイ業界は、政権が、クールビズを始めた自民党から民主党に移った後の平成22年1月、当時の小沢鋭仁環境相に、「クールビズの廃止」を陳情したことがある。
 日本ネクタイ組合連合会と東京ネクタイ協同組合が連名で行った陳情で、「クールビズ運動は、ノーネクタイ運動と同一視され、ネクタイを外せばCO2(二酸化炭素)削減に寄与しているかのように考え、行き過ぎたキャンペーン」と批判した。さらに「ネクタイを外しただけのだらしない格好は国際社会の中でみうけられません」とし、「日本の文化を支えてきた絹織物業界の復興に全面的なご協力をお願いする」とつづっている。
 東京ネクタイ協同組合によると、環境相から「検討する」との回答があったが、その後も「クールビズ」は行われている。
 東日本大震災が起きた平成23年には、電力不足が叫ばれる中、クールビズの期間はそれまでより2カ月増え、5~10月の6カ月間となり、昨年、今年も同じ半年があてられた。
 環境省の担当者は「ネクタイを外そうと特に訴えているわけではない。百貨店では夏でも涼しげなネクタイを提案していただいている。どこかの業界が傷みを伴うというのは本意ではない」と説明する。ただ、この担当者に、自身が夏にネクタイをしていたかと問うと、「環境省はとにかく暑い。していなかった」と答えた。
 ■「善戦」の売り場は
 生産量が激減する中、善戦している売り場もある。
 大阪キタにある百貨店「阪急うめだ本店」の「阪急メンズ大阪」。周囲を行き交うビジネスマンらはノーネクタイ姿も少なくないが、ここでは、1階にネクタイ売り場が設けられ、色とりどり、さまざまな柄のネクタイがずらりと並んでいる。
 「かつてに比べばネクタイの売り上げは落ちていますが、今年は前年並みを保っています」
 阪急メンズ大阪のネクタイ担当、泉建次さん(28)はそう胸を張る。
 人気の秘訣(ひけつ)は、阪急百貨店の国産品を扱うオリジナルブランド「The Tie」(ザ タイ)。価格は6800円と8800円の2種類で、店頭に置いている約2600本のうち、約20%にあたる約570本が、このブランドだ。今年はグリーンが流行で、定番のレジメンタルなど落ち着いた柄のネクタイにも使われている。
 オリジナルブランドならではの価格設定で、比較的上質な国産品を提供していることが受けているという。
 ただ、ネクタイの需要減少は、シャツにも変化を与えている。シャツ担当でもある泉さんは「最近はネクタイなしでもかっこいいシャツが売れ筋。ボタンを外しても、えりがきれいに出て、さまになるタイプが売れている」という。
 ノーネクタイが定着していることについて、ファッションデザイナーの加藤和孝さんは「カジュアル化の波が一流企業にも浸透し、スーツスタイルからまず初めに外されたのがネクタイなのだろう。業界は大変だが、ノーネクタイも一つのファッション。人と接するビジネスでもそれが許されつつある」と指摘。「かつてスーツに帽子は必須だったが、いまフォーマルなスタイルで帽子をかぶる人は少ない。それと同じように今後、ビジネスでノーネクタイがさらに広まるのではないか」と予測している。

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