国産ワインの表示ルールを国税庁が見直し、早ければ10月中にも国産ブドウのみを原料とするワインが「日本ワイン」として販売されるようになる。 これまでは業界の自主基準しかなく、濃縮果汁などの輸入原料で国内製造されるワインも「国産」と位置づけられてきた。新ルールは“純国産”の保護に加え、 輸入原料との差別化を図り消費者に見分けやすくするのが狙い。ブドウ産地の表示基準も整備され、造り手と消費者の距離感が近くなりそうだ。(寺田理恵)

4分の3が輸入原料

ワインの味はブドウの品種や産地の気候、土壌などに影響され、EUでは産地を表示するにはその産地のブドウを85%以上使用することが条件となっている。

国内でも、ブドウ栽培から手掛けるワイナリー(ワイン醸造所)は増えている。しかし、まだ生産量は少なく、国税庁の調査によると、平成26年度に国内で造 られたワイン9万5千キロリットル(アンケートに回答した176業者)のうち4分の3が輸入した濃縮果汁を原料としていた。

「表ラベルでは海外原料と分からないワインがある。ブドウの産地が明確になれば、生産者の顔が消費者に伝わりやすくなる」。国産ブドウを使ったワインを多く扱う東京都文京区の酒店「リカーズのだや」の佐藤幸平店長(37)はこう期待する。

同店は山梨県を中心に北海道から宮崎県まで国内ワイナリー約30軒のワインを販売。店内には日本固有の品種「甲州」のワインをはじめ、岩手県宮古市産の山ブドウのワインや大阪府羽曳野市の工房で自家農園ブドウ100%で造られるワインなど珍しい商品も並ぶ。

扱い始めたのは13年前、山梨県甲州市のワイナリーで造り手の人柄がにじむ味に出合い、感動したのがきっかけだ。「これからも信頼している生産者のワインを売りたい」と佐藤さん。新ルールは好みのワインを選ぶ上で有効なツールとなりそうだ。

多様で繊細な味わい

新たなルールでは、国内製造でも海外原料を使ったワインは表ラベルに「濃縮果汁使用」などの表示を義務付ける。国産ブドウのみを原料とする果実酒は「日本ワイン」と表示する。国内の特定産地のブドウを85%以上使っていれば、「◯◯産」などと地名を表記できる。

原料の85%以上が特定の産地のブドウで、産地と醸造地が同じ場合、例えば産地が山形なら「山形ワイン」と表示できる。醸造地が産地外だと「東京醸造ワイン 山形産ブドウ使用」といった表示にする。

特定産地が85%未満の場合は産地を表示できないが、「東京醸造ワイン」など醸造地を表示できる。ただし、「東京はブドウの産地ではありません」などと表示する必要がある。

新ルールは、消費者に分かりやすい表示と日本ワインの振興を目的としており、違反した場合は酒類業組合法に基づき、指示、命令や罰金などの法的措置がとられる。

「日本ワインガイド」の著者でフード&ワインジャーナリスト、鹿取みゆきさんは「日本ワインは原料となるブドウの品種が多様で、欧米から来たものや日本の 固有種、国内の自生種や交配種が栽培され、多種多様なワインが生産されている。共通した味わいとして、穏やかな気候を反映した繊細さを持つのも魅力の一つ だ」と指摘する。

こうした特徴は、諸外国の食文化を取り入れた食の多様性や繊細な味付けに対応しているという。さらに、北海道のさわやか な気候や長野の寒暖差のある気候など産地の風土を思い浮かべることができ、より深く味わえる。鹿取さんは「身近に産地を感じながら楽しんで」と話してい る。

■ワイナリーに準備期間必要

生産者側の受け止めはさまざまだ。地元産ブドウを使うワイナリーの多い長野県のワイン協会理事長を務める塚原嘉章・井筒ワイン社長は「産地表示は造り手や土壌、風土といった地域のワイン文化を伝えやすい」と評価する。

一方、国内の他地域から仕入れたブドウも使うワイナリーの中には、「○○ワイン」との産地表示が可能な「地元産85%以上」をすぐには確保できない所もあ る。大阪府はワイナリーが新ルールに対応するために十分な経過措置期間などを求める緊急要望を国税庁に提出した。府内には「河内」や「柏原」の地名を冠し たワインがある。ブドウ園拡大に取り組んでいるものの、地元産だけで85%を調達するのは現状では難しい製品もあるという。府は「河内はブドウの産地なの に、85%に達していないからといって『河内はブドウの産地ではありません』と併記するとしたら事実誤認につながる」(流通対策室)としている。