仙台の男性 結婚中の経験語る 妻からのDVにも傷つく
19日は男性の生き方を考え、ジェンダー平等を目指す「国際男性デー」。生きづらさを感じる理由の一つには、従来の「男が稼ぐ」という考えもあるとされる。家族からのプレッシャーでつぶれそうになった経験を持つ男性の心の内を聞いた。(生活文化部・安達孝太郎)
●自分責め続ける
仙台市青葉区の明さん(仮名)は、妻からのドメスティックバイオレンス(DV)で深く心を傷つけられた。30代半ば。今は離婚している。結婚中は自分を責め続けたという。
「男が稼いで、幸せな家庭を築くという理想が自分の中にあった。現実との差が大きく、鎖に縛られていたようだった」
20歳で美容師になり、22歳で結婚。妻が故郷での第1子の出産を希望したため、仕事を辞めて引っ越した。妻からの暴言が始まったのは間もなく。再就職がうまくいかず、収入が安定しないことなどが背景にあった。スマートフォンをチェックされ、性行為を強要されることもあった。
2人目の妊娠を機に、DVがエスカレートした。明さんは当時26歳。転職を繰り返し非正規の販売員になっていた。手取りは月15万円で、小遣いは5000円と決められていた。妻は正社員として働いていたが、給与額を教えてもらったことはない。
当時、勤務先の売り上げが悪化し、ノルマの重圧がのしかかっていた。遅く帰っても明さんが家族の食事を作った。それでも妻は「金はどうするのか」「早く転職しろ」。暴言に加え、物も投げ付けてきた。
間もなく起き上がれなくなり、うつ病と診断された。「お前のせいで不幸になる」とののしられ、「罪悪感に押しつぶされた」。命を絶とうと、大量の処方薬と1瓶分のウイスキーを胃に流し込んだ。すぐに見つけられ、一命を取り留めた。
●家庭環境影響か
異変に気付いた明さんの母が間に入り、27歳で離婚した。「あの時は、誰にも弱みを見せられないと思っていた。男の自分が頑張らないといけないと考えていた」。そんな思いを抱くようになったのは家庭環境が関係しているのかもしれない。今ではそう感じている。
農村地帯で育った。同居していた父方の祖父母と両親の仲が悪く、家庭内はいつもぎすぎすしていた。過干渉だった母は、何でも先回りして世話を焼いてきた。役場の要職に就いていた父は家庭への関心は薄かったのに、小中学校でPTA会長を務めるなどしていた。「父は収入だけは確かだった。愛情を注ぐ代わりに家庭にお金を入れていたのだと思う」
明さんは離婚後、アルコール依存症で入退院を繰り返した。今、引き取った長男を実家に託し、依存症の人たちが回復を目指す仙台ダルク(青葉区)の寮で暮らす。
ダルクでは入寮者が共に過去を振り返る。「父を見返したいと考え、父よりも稼ぎたいと思うようになっていた」。自身と向き合うことで父に対する感情に気付いた。
元妻は高校時代から付き合っていた年下の女性だった。新しい環境下で暮らす中で、2人の関係についてもようやく振り返ることができるようになった。「結婚して力関係が逆転する前は、僕が彼女の駄目なところを見つけては何度も指摘していた。多分、モラルハラスメント(精神的な暴力)。あの時の行いが、返ってきたんだろうな」