在宅勤務で「電子印」広がる 慣行見直し加速か

新型コロナウイルス対策で在宅勤務(テレワーク)が広がる中、インターネット上で文書に決裁印を押せるシステムが広がっている。日本では紙の契約書や証明書に印鑑を押す慣行が定着しているが、印鑑を押すために出勤を余儀なくされる懸念も出ている。国も慣行の見直しを進めようとしているが、関係者は「デジタル化を加速させるべきだ」と話している。(大渡美咲)

 文具メーカーのシヤチハタ(名古屋市)は、パソコンやスマートフォンから文書にアクセスして事前に登録した電子印鑑を「押す」ことのできるサービス「パソコン決裁Cloud」を展開している。外出自粛要請が強まった4月以降、申し込みが急増している。

 料金は印鑑1つにつき100円で、6月末まで新規申し込みは無料。同社の担当者は「働き方改革による需要を見込んでいたが、新型コロナがきっかけで伸びている」と話す。

 ペーパーレスによる効率化を進める国はもともと、行政手続きのオンライン化に乗り出しており、昨年5月には転居申請や本人確認、手数料申請などをオンライン上で完結させる「デジタル手続法」が成立。昨年12月には商業登記法が改正され、会社設立時の印鑑の届出義務を廃止することが決まった。

 ただ、日本は「はんこ文化」が社会に根付いている。同様に行政手続きや契約時に印鑑(印章)を用いる韓国や台湾などと比べても、印鑑が必要となる場が多いとされる。

 首都圏のIT企業など23社が連携して中小企業向けにテレワークのノウハウ共有を手掛ける「TDMテレワーク実行委員会」の長沼史宏委員長は、在宅勤務が広がる中でも「中小企業には、今も印鑑を押すために出社せざるを得ないという現状がある」とし、「どこにいても仕事ができる環境づくりを進め、多様な人が働けるようにしてほしい」と訴える。

 一方、印鑑の需要減など時代の変化を受けて印影のデータ化などを進めている全日本印章業協会の徳井孝生会長は「(印鑑を)なくす議論だけでなく、自分の意思を代弁するものとして、多くの人が持つ印鑑を生かす方向を模索したい」と語る。

 政府は新型コロナの感染拡大を防止するため、行政手続きの押印や書面提出など慣行の見直しを進めるよう関係省庁に指示。企業同士の契約手続きに印鑑を求める文化の見直しについても議論している。

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