トヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)が地域のものづくり企業を対象に、人工知能(AI)技術の活用支援に取り組んでいる。専門のスタッフを派遣し、画像認識システムなどの内製化を一からサポートする。生産工程の見直しといったトヨタ式カイゼン(改善)により、地域企業を支援する活動の一環で、製造現場の効率化と人材育成を支える。
(経済部・三浦光晴)
パソコンとつないだ小型カメラが長靴を捉える。9月下旬、ゴム製品を手がける弘進ゴム亘理工場(宮城県亘理町)の会議室。右足か、左足か。社員ら十数人が見守る中、AIが「レフト(左)」と判別すると、わっと歓声が上がった。
「AIの活用術を一から学んで、ここまで来た」。生産現場のチームリーダー、高橋宏直さん(41)が目を細めた。商品をセンサーで点検するシステムを試作中。目視に頼る業務をAIに置き換え、業務改善につなげようと思い描く。
同僚の菊地智英さん(33)と6月から月2回ペースで取り組む。指導役はトヨタ東日本AI推進グループの安味(あんみ)憲一さん(51)で、プログラミングや機器の扱いなどを教わっている。
AI推進グループは2019年1月に8人で発足した。全員がAI初心者だったが、一般に無料公開されているプログラム「オープンソース」を使い、自社の生産効率化に乗り出した。
半年後、岩手、宮城両県の計3工場にAI活用ノウハウの普及を開始。生産現場の従業員が取り入れ、現在は外装品の検査など約90のAI活用システムが稼働する。
「エラー対応も応用も自分たちでこなせる」と、安味さんは内製化の利点を挙げる。現場がシステムを理解して管理・運用することで「例えば検査対象が変わっても、現場でプログラムを調整できる」という。
社外への普及は23年度から。岩手県と連携し、除雪機など製造の和同産業(岩手県花巻市)、プラスチック製品加工のニュートン(同県八幡平市)で開発を手伝った。24年度は支援先に県内3社が加わり、宮城県内の企業にも活動を広げた。
弘進ゴムの亘理工場では、宮城県産業技術総合センター(仙台市)の技師も学ぶ。行政の支援策として、トヨタ東日本の活動を引き継ぐことを視野に入れる。県自動車産業振興室の担当者は「地域全体の生産性向上、技術力の底上げにつなげたい」と展望する。