地方活性化とは名ばかりの「産直販売施設」

前回のコラムでは、「なぜ地方は補助金をもらっても衰退するのか」について取り上げました。「地方に必要なのは『おカネそのもの』ではなく、『おカネを継続的に生み出すエンジン』である」というのが主な趣旨ですが、本当に多くの反響を頂戴しました。

さて、今回は全国各地にある「道の駅」をとりあげたいと思います。

この施設を一度でも訪れたことがある方は、結構いるのではないでしょうか。では、道の駅は誰が作っているのでしょうか。「民間業者が、普通に地元の特産品などを買える便利な商業施設として営業している」、と思っている方も多いと思います。

しかし、実は、道の駅の約8割は行政が設置しているという、立派な公共事業の一つです。

そのため、 売上げを伸ばしていこうという努力が足りなかったり、そもそも立派な建物すぎてコストが高かったり、さらには「破綻しても行政が事業主体だから、行政任 せ」という状況になっていたりしているのです。今回は、道の駅が「おカネを継続的に生み出すエンジン」になっているのかどうか、検証してみましょう

道の駅は、1993年に建設省(現・国土交通省)によって認定制度がつくられ、当初は103カ所からスタートしました。現在は全国に1040駅(2014年10月10日)もの道の駅が、点在しています。これだけできれば、さまざまなところで取り上げられるような、儲かっている道の駅もあれば、完全に失敗してしまっている道の駅もあるのです。

道の駅は、「休憩機能」、「情報発信機能」、「地域の連携機能」、という3要素を持つことが期待されています。とはいえ、実態としては、ほとんどがロード サイドの商業施設として、地域の商品を販売したり、観光拠点にしたりという、地域活性化効果を狙っているものばかりです。つまりは、経済の活性化、消費の 喚起を大きな目標として経営されているのです。

そうすると、結局のところ、消費者が「わざわざ行きたい」と思えるような運営をするかどうか、に成否がかかってきます。 当然ながら顧客にとって別に利用したくないような施設であれば、経営的には成り立ちません。行政が関わるのでいたずらに公共性を意識して、情報発信だの、 地域の連携だの、という要素を謳うものの、実態としては、道の駅自体は、やはりマーケット(市場)にさらされているのです。

私は、東京と地方を行ったり来たりの毎日ですが、最近は地方で車に乗っていると、「これでもか」というほど国道沿いなどに、次から次へと道の駅が出てきた りするところもあります。当初は「トイレ休憩などもできる貴重な場所」といったように、存在感もありましたが、昨今ではコンビニの多くも公共性を謡うこと が集客につながるとわかってからは、綺麗なトイレを開放していたり、地方の特産品も売っていたり、と競合が激しくなる一方です。

そのため、実際に経営不振に陥り、赤字が続く道の駅が出てきています。これが普通に民間でやっていれる商業施設であれば、「すべてがうまくいくもんじゃないよね、それが当たり前だよね」で済みます。しかし、自治体が関与して税金で建てた施設が、失敗してしまえば、地域の重荷になってしまう事態に発展します。

実際に「このままだと経営破綻しそうだ!」となって自治体が特別予算を組んで実質的な救済に乗り出したり、はたまた閉鎖するという事例も出ています(ここでは大手新聞社が報道している「道の駅」のニュースを参考に挙げておきます)。

もちろん、道の駅は、その他のさまざまな政策なども考えれば、「産直で地元の付加価値生産をあげよう」という趣旨は、評価できます。

しかし、「成功しているように見えるもの」にも、行政が主導することで、構造的には地域全体に与える問題もあったりします。では、こうした「経済活性化」という名目で行政が施設整備を税金で行い、その施設運営を民間に委託して実施することで生じる問題点は、どこにあるのでしょうか。

道の駅は基本的に、自治体が事業主体となって、施設そのものは税金によって開発されていきます。作った施設を、指定管理制度を活用した第三セクターなどに任せて経営してもらうというモデルが主流です。

もし、普通に民間が事業として施設を開発するならば、施設整備の初期投資部分の回収も含めて、施設運営の売上げから捻出するのが常識です。しかし、道の駅のほとんどは、初期投資は税金で作られています。

したがって、「その部分」については、稼ぐ必要がないという前提になってしまいます。そのため、事業計画の段階から、あまり売上げがあがらなくても「成立 する」というような環境になってしまいます。立派な施設を税金で作っておオカネはかかっているのに、経営上、売上げのハードルが楽になる、という歪んだ状 況がここに生まれます。

一見すると、「立 派なものを支援して作ってあげて、その後も大して儲からなくてもいいような仕組みになっているので、楽だからいいじゃないか」と言われたりするのですが、 その過剰投資を税金で賄って、その後の「楽になる」ということが、実際は経済を活性化するという上で、関係者の生産性を下げてしまうわけです。

結局、 地方の生産性が上がらないのは、損益分岐点が歪んだ通常より低い水準で容認され、生産性は低くても維持可能な環境そのものにあります。運営を任された第三 セクターなどの、売上げ向上・改善に向けての努力があまり行われなくなり、自ずとその地域に本来生まれるはずの利益が小さくなってしまうのです。

「ゼロよりはいいだろ」、と言われればそうかもしれません。しかし、普通に事業規模に対応した初期投資を皆で行い、より高い利益を生み出そうとして売上げの水準を上げていこうという「サイクル」の先に、活性化があるのです。

何も高いリスクをとることだけを奨励しているのではありません。しかし、「リスクが低く生産性をほとんど考えず、ソコソコでいいよね」という経営環境を求めているのであれば、それは活性化とは程遠い状況になってしまいます。

しかも、事はそう簡単ではありません。「初期投資がゼロ=売上げを上げる努力が怠られがち」だけなら、まだましかもしれません。実は、経費面でもマイナス効果を生みます。

どういうことでしょうか。行政が中心となって最初に立派な施設を建設するため、普通の民間事業では到底建てられないような施設になりがちなのです。数億円の施設はザラで、場合によっては温浴施設などと一緒に整備して20億円以上かけているようなケースもあります。こうした過剰投資は、税金だからこそ可能なのです。それらは結果的に、自治体の財政負担=市民の負担、国の支援=国民の負担、という形で成立しています。

行政が計画する施設は、商業施設としては過剰な内容になりがちです。また必ずしも運営者が設計するわけでもありません。あくまで設計は設計、開発は開発、運営は運営というカタチが多く、いざ運営する側からすると、不便も多かったりするのです。

さらに過剰投資した施設の維持費は、カタチには見えにくいものの、実際は、運営で生まれる利益から捻出したり、もしくは自治体が予算を立てて維持しています。結果として、経営的にはせっかくの売上げからも高い施設維持費が差し引かれて一段と薄利になったりします。もちろん、自治体が予算を新たに組めば、その分、財政は悪化するわけです。

一般に、施設を建ててから解体するまでの「ライフサイクル全体のコスト」は、建設費の4~5倍かかると言われており、決して馬鹿にできません。このような、見えないコストが事業の利益を蝕んでいるわけです。

売上げの面で目標が低くても、事業が一見成立するようになり、一方、経費面では過剰投資のツケが運営にまわって割高なコストで薄利になってしまう。この 「ダブルパンチ」によって、道の駅事業は、表向きは人がそこそこ来ていたとしても、地元で大きな利益を産んで、再投資がされていく、という理想的なサイク ルにつながっていないことが多くなっています。

さらに、まだ問題は隠されています。「事業主体が行政である」という、初期段階からの依存構造が発生してしまっています。

結局、道の駅の事業主体は自治体です。

そのため、施設の運営を委託された業者や産直施設への納入者は、事業主体としての意識が希薄になりがちです。結局、最終責任は自治体なわけですから。「行政の事業を受けて施設を経営している」、「誘われたので、産直施設に商品を納入している」、という「受け身の姿勢」を生み出す構造も大きな問題になります。

初期投資だけでなく、経営が行き詰まれば行政に救済を求める。さらに、産直市場での売れ行きが悪ければ「わざわざ出荷しても、どうせ売れない」と、農家は商品さえ持って行かなくなってしまう。こうなると、ますます経営は悪化します。

今まで道の駅の構造を見てきましたが、これを前々回のコラム「リアルな地方創生は、補助金に頼らない」で取り上げた、岩手・紫波町のオガールの施設と比べてみましょう(オガールは「道の駅」ではありませんので、お間違えのないように)。

オガールの商業施設の一つである、「紫波マルシェ」は、ひとことでいうと、産直市場+肉屋、八百屋の複合業態です。普通に市中銀行から借り入れをして施設 整備をして、立派に黒字経営されています。これらは、全体の事業計画から逆算し、建物は坪あたり40万円未満という低い建設費と、初期の農業者の加入登録 制度などによって、成功しています。

実は、補助金などをもらうと、地元産品の比率を一定以上にするなどのルールがあり、冬場になると、商品がほとんど地元でとれないので売り場が閑散としてしまうような産直市場もあることを、皆さんはご存知でしょうか。

しかし、紫波マルシェは完全に自前でやっているため、そういう制約もありません。冬は九州などからも仕入れを行い、売り場の充実を図ることで、年間を通じ て安定的な経営を実現しています。これは、施設を開発し、その運営を担い、事業責任をとるのが「オガール紫波株式会社」である、と明快でかつ一貫している からと言えます。

地域で経済を生み、生産 性を高めていくのは行政ではなく、民間です。逆に、民間が「なんでもかんでも行政に金を出してもらおう」という姿勢でいる限り、その地域が活性化すること はありません。また、行政も「税金で手助けすれば、地域で楽に事業ができる」という過信を持つと、支援なしに事業に取り組む人が地域からどんどん少なくな り、生産性が下がって、ますます衰退を招くことを認識しなくてはなりません。

本来、商業施設などをつくる場合は、トイレなどの公共機能部分は行政が整備するにしても、その脇という優位な立地を活かして、事業を考え、利益から逆算して施設規模を計算し、資金の調達をして経営するのが基本です。

もちろん、私も地方において自分たちで投融資をして事業に取り組んでおり、すべてのケースで事業がうまく行くわけではなく、環境面で難しい場所があること も重々承知しています。しかしながら、「難易度が高いから不可能」なのではなく、また、「都会と同じやり方」ではなく、別の工夫をして、事業を成り立たせ るよう、努力しています。

簡単にいえば、都市部なら「坪当たり100万円」を投資して施設の整備ができるような事業でも、地方だと坪30~40万円、つまり民家とほとんど同様の建築費で整備をしなくてはならない、などというケースはザラにあるのです。

場合によっては、それでも無理で、最初はテントなどを張ったマーケット形式で事業を始めていくこともあります。私のような者から言わせれば、道の駅のように都会同様の立派な施設を地方に作るのであれば、税金が必要になってしまうのは当然です。

地方創生を貫くテーマであり、これからも何度も繰り替えると思いますが、地方の活性化は「おカネがないからできない」のではなく、「知恵がないからできない」のです。

かつては私自身も関わったプロジェクトでは、まず初期の段階で行政支援を仰ぎ、そのうえで事業にとりかかったこともありました。しかしながら、すりあわせ をしていくと、どうしても民間の事業ルールと行政の計画との間にはズレがあり、結果として成果も小さくなってしまうことが過去何度もありました。

だからこそ、最初は本当に大変なのですが、民間でできることを考え抜いて実行することこそ、しっかりと地に足の着いた経営ができると思って取り組んでいます。

何でもかんでも行政が支援をしていると「支援もないのに頑張れない」という依存心がますます強くなり、普通の市場では戦えなくなってしまいます。正常な民間の力がどんどん失われていってしまうのです。

道の駅に似たような産直業態でも、民間でしっかり利益をあげている商業施設もあります。しかし、一度「行政支援」を前提として道の駅を出店してしまえば、そのような芽は摘んでしまうことにもなりかねません。

地方では、民間で事業を起こしてくれるめぼしい人がいないから、「まずは先行投資などで行政が頑張る」という話は一見理解を得られやすい話です。しかし、行政が頑張れば頑張るほど、民間は行政に依存してしまうという矛盾があります。これが地方創生事業における難しさでもあり、一番の大きな問題でもあります。

見た目では分からない、一見民間の事業活動なのに、実際は行政支援が行われ、それが見えないカタチで地域の生産性を低下させているという矛盾、その一例が道の駅だと思います。今一度、公共としての役割、民間としての役割についてしっかり線を引き、一定の緊張感をもった連携ができるか、が問われています。

【参考URL】道の駅の全国リスト(国土交通省)

タイトルとURLをコピーしました