地盤に不安の武蔵小杉 資産価値低下は新浦安や幕張と同じ道か

全国各地の地盤強さを数値で知ることができる「地盤カルテ」が注目されている。パソコンやスマートフォンで地盤カルテにアクセスし、自宅や職場、学校など調べたい住所を入力すると、その土地の災害リスクが100点満点で何点か、スコアが示される。

 地盤カルテを提供する「地盤ネットホールディングス株式会社」の山本強社長が説明する。

「このスコアは【A】地盤改良比率(補強工事の度合い)、【B】浸水リスク、【C】地震による揺れやすさ、【D】土砂災害リスク、【E】液状化リスクの5指標を総合評価して算出しています。改良工事比率などの独自データに加え、全国各自治体のハザードマップや国土地理院が作成したリスク区分などをもとに弾き出しているので、極めて信頼性が高いと自負しています」

「地盤カルテ」の特徴は、全国各地の地盤スコアをピンポイントで調べられることにある。そこで、近年のタワマン人気で脚光を浴びた武蔵小杉周辺(神奈川県川崎市)はどうか調べてみた。

 2019年10月に首都圏を襲った台風19号による豪雨で、同エリアのタワマンは深刻な浸水被害に見舞われた。そんなタワマン群近辺のスコアは45点。浸水と液状化リスクはいずれも4と高かった。

 地盤カルテにはスコアと並んで近隣の公示地価が記載されている。武蔵小杉駅周辺の公示地価は1平方メートルあたり139万円。先の浸水被害から現状ではまだ大きな変化は見られないが、『マンション格差』(講談社現代新書)などの著書がある不動産ジャーナリスト・榊淳司氏はいう。

「マンションの資産価値を左右するのは、駅から近いなどの立地だけでなく、近年は地盤の強弱も重要な指標になってきました。地盤のリスクを知る上で大事になるのが、そこが昔どんな場所だったかということです。被害のあったタワマン付近は、地元では『あの辺りは沼だった』と言われています。

 そうした昔の地形のなごりが地名に残っているケースもあるので、『川』や『沼』といった文字が使われた地名は注意が必要です」

 この地盤と不動産価値の関係に注目したのが、西武鉄道だ。地盤カルテの調査によれば、西武鉄道は首都圏の路線で非常に安全な地盤を走っていることが判明。2018年に「いい地盤の日(11月28日)」アワードの大賞に選ばれた。

 西武鉄道はこの受賞を受けて、「路線一帯の不動産価値」のアピールを始めた。西武ホールディングスの後藤高志社長は本誌・週刊ポストのインタビュー(2019年10月4日号)でこう語っている。

〈地盤の強さは西武池袋線がトップで西武新宿線が第2位という結果が出た。西武池袋線では石神井公園、大泉学園、保谷、ひばりヶ丘あたりが特に地盤が強く、西武新宿線も上石神井以西が特に強固でした。地震大国である日本では、地盤の固さは、オフィスにしろ住宅にしろ重要なポイントです。基礎工事の費用も安く済む。この点をアピールしていけば、今後の競争力は増していくとみています〉

 2011年の東日本大震災では、新浦安(千葉県浦安市)のマンションで大規模な液状化被害が起きたが、地盤リスクが顕在化した場合、資産価値はどうなるのか。前出の榊氏が語る。

「新浦安と海浜幕張では、その後2~3年かけて付近の不動産価格がズルズルと下がり、3割以上も下落した物件もありました。武蔵小杉も同じ道を辿る可能性があります」

 自分が住んでいる土地や購入予定の土地に地盤リスクがあった場合はどうすればいいか。不動産事情に詳しい経済ジャーナリストの三星雅人氏はこう説明する。

「液状化は地盤の改良工事で防ぐことができます。たとえば横浜や横須賀などの崖沿いの住宅は地盤が不安定な場所も多いですが、現在の技術なら災害に強い地盤に改良することは可能です。まずは不動産業者に相談してみると良いでしょう」

 前出の山本氏もこう話す。

「地盤補強の費用の目安は一般的な木造住宅で数十万円から数百万円。具体的な金額は現地で地盤調査をする必要がありますが、不安定な地盤に住んでいることが分かった場合は、建物の耐震補強工事を検討してほしい。

 また液状化リスクが高い土地は、有事の際に水道・ガスなどのインフラが寸断される可能性も否定できない。それを念頭に置いて、防災グッズを常備するなど対策を講じておく必要があるでしょう」

 まずは“足下の点数”を知ることが大切だ。

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