地震保険で過小判定、裁判で逆転相次ぐ 全国で被災者勝訴 支払額20倍のケースも

政府と民間の保険会社が地震保険法に基づき共同運営する地震保険で、家屋の損傷に対する過小判定が全国で相次いでいることが9日、河北新報社の取材で分かった。保険会社側が支払いを抑制したためとみられる。保険金の支払額が本来額の10分の1や20分の1になっており、裁判を起こした被災者の勝訴が相次ぐ。保険業界の判定基準が公になっていないことが背景にあり、専門家は「全員に正確な判定をすれば、未払い額は数百億~数千億円単位になり得る」と見積もる。 【写真】「一部損」から「全損」に判定が覆った住宅の被害場所をライトで照らす1級建築士の男性=5日、仙台市泉区 ■1000万円支払い命じる  東京地裁は1月26日、東京海上日動火災保険に地震保険の保険金1000万円を支払うよう命じた。訴訟は、同社から「一部損」(保険金50万円)とされた2021年2月の福島県沖地震での判定を不服として、仙台市泉区の会社員男性(47)が提訴していた。  古庄研裁判長は、証拠採用された日本損害保険協会(損保協会)の基準を挙げて「査定指針基準表に従って計算すると『全損』と認められる」と過小判定を指摘した。東京海上は控訴せず、判決は確定した。  16年4月の熊本地震で被災した大分県別府市のマンションのケースでは、東京地裁が20年11月、損保ジャパンが「一部損」(保険金1050万円)とした判定を覆して「半損」と認定、1億500万円支払うよう命じた。  民間の全国建物損害調査協会によると、同協会が18年から22年5月に被災者から再調査の依頼を受けた一般住宅やマンション計311件のうち、118件で保険会社の過小判定が判明し、保険金額は計4億5690万円増額になった。 ■「言い値」に反論できず  同協会は熊本地震や、18年の北海道胆振東部地震、大阪北部地震、21年の「首都圏地震」など全国の被災地で再調査をしており「ほぼ全都道府県で保険会社の過小判定が覆っている。全ての物件に正確な判定をすれば、保険金額は膨大になる」と語る。  地震保険は、被災者の請求に応じて保険会社の鑑定人が現地調査し、保険額を支払う仕組み。保険会社が契約者に交付する「契約のしおり」などの重要事項説明書に認定基準や査定指針が全文明記されていないため、被災者にとって保険会社の「言い値」に反論する材料がない。  大手保険会社でつくる損保協会は、判定が覆った件数、金額を把握していない。  同協会の広報担当は「過小判定が頻発しているとは認識していない。基準通りに適切に判断している。悪質な業者に利用される恐れがあるため、基準や指針は公にできない」と話した。 [地震保険]地震保険法に基づき、民間保険会社の保険責任を政府が再保険する形で運営する。一般の加入は任意。保険金限度額は住宅5000万円、家財1000万円。被害の程度により、全損(保険金額の全額)、大半損(同60%)、小半損(同30%)、一部損(同5%)の保険金が支払われる。1回の地震の総支払限度額は12兆円。東日本大震災の支払総額は約1兆3000億円。自治体が発行する罹災(りさい)証明の全壊や大規模半壊、一部損壊とは違う。 ■「指針非公表が不均衡生む」  消費者契約に詳しい吉岡和弘弁護士(仙台弁護士会)の話 保険会社による過小判定は、再調査や代行申請で暴利を得る悪質業者を増やす温床になってしまう。保険金支払いの基準や指針を公にしないことは、消費者と保険会社の間に情報量、交渉力の両面で不均衡を生じさせ、消費者契約上好ましくない。消費者に情報がなければ、保険会社の判断に従わざるを得なくなってしまう。

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