新型コロナウイルス下で密を避けて移動したり、アウトドアを楽しんだりする人の増加を背景に、普及が進む「電動アシスト自転車」。県内でもシニアや子育て世代、通勤通学者など幅広い層に利用が広がる一方で、同自転車による交通事故が急増している。モーターによる補助機能が日本の基準を超える海外製の車両が絡む事件なども発生し、県警は安全運転に加えて購入前の性能確認の徹底を呼びかけている。
「重荷があっても発進が安定し、子どもを乗せて買い物に行くのが楽」。静岡市駿河区の主婦(35)は、2020年に受給した新型コロナの特別定額給付金10万円を元手に電動アシスト自転車を買った。「短い距離なら自動車より小回りが利くし、マスク生活の中で風を感じられて気分もいい」と使い心地の良さを気に入っている。
■昨年出荷79万台超
経済産業省の統計では、21年の国内電動アシスト自転車の出荷台数は約79万3千台。電動機のない一般自転車の出荷台数約53万台を大幅に上回った。新型コロナ前だった5年前の5割増に迫るペースだ。高齢者からの人気に加え、新型コロナ下の移動手段や気軽なスポーツ、レジャーなどの需要が伸びているとみられる。
同市葵区の自転車専門店「CSシントミ」では、販売車両のうち電動アシスト自転車の割合が年々増加している。大石規之店主(58)は「スポーツタイプから折りたたみ式まで、ほぼ全種類の自転車に電動機付きのモデルがあり、デザインもいい。若者の購入が増えている」と語る。
■死傷者2年で倍増
だが、普及に伴い、交通事故も急激に増加している。県警交通企画課によると、県内の19年の電動アシスト自転車による交通事故の死傷者数は104人。同年までの数年間は微増で推移していたが、20年に170人、21年は261人と跳ね上がった。自転車事故全体の死傷者数が17年比で約3割減少している中、急増ぶりはひときわ目を引く。
電動アシスト自転車の事故では、急加速で速度が出たまま交差点に進入し、出合い頭事故を起こす例が多い。21年の死者は6人(前年比5人増)で、いずれも高齢者。坂道や交差点で補助機能や速度を制御できず、事故に遭ったとみられる。
県警は交通安全のキャッチフレーズ「しずおか・自転車事故防止3つの柱+1(プラスワン)」の中で、高齢者に対して電動アシスト自転車の特性を理解するよう求めている。乗り始めの急加速に注意し、誤発進防止のため停止中はペダルに足を置かず、ブレーキをかけたままにするよう呼びかけ。モーターやバッテリーにより一般自転車より10キロ前後重くなるモデルが多く、低速時にはバランスを失いやすいため注意が必要という。
■国内外の規制に差
電動アシスト自転車は、道交法でペダルをこがなければ走行しない構造であることに加え、ペダルをこぐ力に対するモーターの補助力は、時速10キロ未満では最大で人力の2倍▽時速10キロ以上で徐々に減少し、時速24キロでゼロになる−などの基準が設けられている。
海外での電動アシストの規制は日本とは異なる。自転車産業振興協会によると、欧州連合(EU)ではモーターの補助力は時速25キロが上限。米国では時速30キロ以上の上限を設けている州もあるなど、日本の基準を超えた機能が認められている国もある。
静岡市駿河区の歩道で4月に自転車同士が衝突し男性が重傷を負ったひき逃げ事件で、逮捕された30代の男の電動アシスト自転車は制限を超える速度まで補助機能が働く海外製の車両だったという。静岡地検は車両が原動機付き自転車(原付)に当たると判断し、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)と道交法違反(ひき逃げ)の罪で男を静岡地裁に起訴した。
海外から電動アシスト自転車を個人輸入することも可能だが、日本の基準に適合しない自転車の場合、公道を走るために運転免許やナンバープレートなどが必要な原付とみなされることもある。県警交通企画課の担当者は「性能を確認しないで利用すると、知らずに道交法違反を犯す恐れもある」と警告する。