塾・習い事・進路……子供を一人前にする正しい選択6

■【1】私立公立 vs 中高一貫校

「高校へ進めない」まさかのリスクも

中学受験というと従来は私立と国立だけでしたが、最近は都立や県立の中高一貫校も増えています。私立中は初年度納付金が平均で100万円近くかかりますが、公立中は義務教育なので授業料は無料。公立に合格すると、「これで6年間、学費の心配をしなくていい」と安心してしまいがちです。しかし、それは早計かもしれません。

公立一貫校も私立や国立との対抗上、進学実績を上げるために厳しい学習指導を行っています。しかし、子供がいったん落ちこぼれたら、懇切丁寧な指導で成績を引き上げることまではしてくれません。せっかく入学しても成績が振るわない場合、高校進学時に「他の学校に進むという選択肢もありますよ」と学校から勧められ、他校を受験せざるをえない場合があるのです。

公立一貫校の入試では私立や国立とは異なり、「適性検査」によって合否を決めます。義務教育なので、学力よりもその学校への適性を見るという建前です。その結果、首都圏のある公立一貫校関係者によると「適性検査の高得点者が学力上位とは限らない」という現象が起きているそうです。つまり、適性検査に通ったからといって学力が高いとは限らず、入学後の熱心な指導についていけない子が出るのはある程度やむをえないことなのです。

となると、一貫校の授業についていけないのですから、他校を受験しても公立のトップ校や準トップ校には合格できず、それなりのレベルの公立校か、私立高校に進む可能性が高くなります。そこまで考えて、私立高校進学に必要な資金を用意しておくべきでしょう。

公立でも中高一貫校の場合は学年費などの校納金や制服代が高額だったり修学旅行先が海外だったりと、私立ほどではないにせよ、一般の公立中よりはややお金がかかる傾向にあるようです。また、神奈川県立なら県内一円、横浜市立でも市内全域から生徒が通ってきます。近所の公立中よりも定期代などの交通費がかかることは意外と見落とされているかもしれません。

私立の場合、間違いなく公立よりも学費などの費用がかかります。ただ、その費用も学校によってさまざまです。神奈川県では慶應義塾湘南藤沢中等部など最も学費が高い学校が初年度140万円台であるのに対し、最も安い聖ステパノ学園中学校は60万円台と、2倍以上の開きがあります。受験先には学費の安い私立を狙うという手もあるでしょう。

■【2】複数塾通い vs 塾なし家庭学習

本当に必要なのか?父親の役割が問われる

「塾なんかに通わせないで、学校と家庭学習だけで受験させればいいじゃないか」

特に地方出身で優等生だったお父さんが言ってしまいがちな一言です。たしかに理想ですが、まず不可能です。特に中学受験は、小学校の学習だけでは対応できません。また、それだけの内容を家庭で教えるのは高学歴の親でも至難の業。高校受験の場合も、地域によっては中学校の先生が進路指導を塾に委ねてしまっているような状況です。最低限の塾通いは受験には必須と考えるべきでしょう。

ただし、複数の塾に通う必要はないでしょう。一つの塾に通う場合も、受講科目を絞って費用を節約することを考えるべきです。大手の進学塾だと、塾の勧めどおりに受講すると小学6年生の1年間だけで105万円もかかってしまいます(図参照)。多くの科目や講座の中で、どれとどれを受講するかは、子供任せにせず両親がよくよく検討しなくてはなりません。

特に大事なのが父親の役割です。母親だけだと不安に駆られて、つい余分な講座まで契約してしまいがちです。そこへ冷静な父親が関われば、合理的な受講プランを考えることができるでしょう。少なくとも母親の不安を共有することで、納得のいく塾選び、講座選びをすることができるでしょう。

■【3】習い事あり vs なし

才能を過信せず大学進学の準備を

子供はいつ、どんな分野で才能を開花させるかわかりません。そのため、できるだけ多くの機会を与えてやりたいと親は思います。子供の可能性を広げてやるために習い事をさせるわけで、大学進学に必要な費用を別に確保できるあてがあるのであれば、好きなだけやらせていいでしょう。

ただし習い事の費用は財布との相談です。親はついわが子が天才ではないかと思ってしまいがちですが、スポーツや芸術で大成するのは非常に難しい。習い事を続けさせるにしても、普通に勉強して大学進学をめざす道を、親が自ら塞いでしまってはいけません。

こんな例があります。あるご家庭では、3人の子供それぞれに好きなことを追求させようと、幼い頃からプロのコーチをつけるなどお金をつぎ込んだのですが、そのために大学進学の費用が尽き3人全員が奨学金を借りなければなりませんでした。3番目の子供は高校進学のときから奨学金を利用していました。

このご家庭は事業家で、子供たちが小さかった頃は裕福だったのですが、その後経営が傾き、大学進学期には家計も火の車になっていました。悪いことに、そのことを把握していたのは奥さんだけで、ご主人はまるで気づかず対応が遅れてしまいました。

スポーツでそれなりの実績を残せば、たとえプロにはなれなくても、推薦で大学に進学できるかもしれません。ただ、そうやって進学しても、ちゃんと就職できるかは別問題です。最近は企業側も、推薦やAO入試で大学に進学した学生には厳しくなってきているのが実情ですから。

■【4】高卒就職 vs 専門学校進学

高額な学費に見合う「手に職」があるのか?

専門学校の初年度納付金は私立大学の文系とほぼ同じ123万円です(平均、図参照)。問題は専門学校に進学しても、その学費を回収できるのかということです。学費が回収できないのであれば、行く価値はありません。

専門学校の魅力の一つは、資格が取れるということです。下位の大学で役に立たない勉強をするくらいなら、専門学校で学んで手に職をつけてもらいたいと考える親も少なくありません。

「手に職」の代表的な資格といえば美容師、看護師、調理師、柔道整復師といったところでしょう。

このうち柔道整復師は、資格の取得まで3・4年制で学び、初年度納付金は155万円ほどですが、最近は供給過多で新規開業は難しいといわれています。

看護師はどうでしょうか。看護師になるには4年制大学の看護学部か3年制の看護学校を卒業する必要があり、このほかに2年制の看護学校准看護科を卒業するか、高等学校の衛生看護科(3年)を出て、まずは准看護師になるという道があります。学費のかからない病院付属の2年制看護学校に入り、准看護師を目指すというのは、かつては「手に職」ルートの王道でした。

ところが神奈川県などでは、医療の高度化に対応するため、今後は准看護師の養成は行わず、准看護師学校も廃止します。看護師を目指すには、最初から難関の看護学部や3年制看護学校に入学しなければなりません。

若者に人気のアニメーターや声優の専門学校もありますが、卒業しても仕事があるかどうかわかりません。そもそもアニメーターの場合、アニメスタジオに就職できたとしても年収は300万円に届かず、投じた学費は回収できないと思うべきです。

そんな事情を知らずに、専門学校へ怒鳴り込んだお父さんがいました。動物好きの娘がペット関係の専門学校に入学し、2年間で約300万円の学費を支払ったのに、卒業しても最低賃金のアルバイトにしか就けなかったというのです。しかし学校側は、2年間ちゃんと授業を受けさせて資格も取らせたわけですから、教育機関としての義務は果たしています。厳しいことを言えば、業界事情を確認せずに入学してしまった本人、そして親の責任です。

こうした現実がある以上、高校卒業時点で希望の職種に就職できるなら、専門学校へは進まないほうがいいと言わざるをえません。

しかし、高校生が希望するような就職口はたいへん少ないのが実情です。公務員は人気ですが、難関です。一世代前なら大企業の事務職や銀行など、高卒者を大量に採用する安定した就職先がありましたが、事務職や工場の現場は派遣や請負に置き換わり、銀行の採用は今やほとんど大卒対象です。

代わって高卒者への求人は、介護業界が多くを占めるようになりました。しかし仕事がきつく収入も少なく、核家族育ちで高齢者への応対の仕方もわからないため、就職しても長くは続かないといわれています。高卒時に就職を選ばず、専門学校へ行く生徒が多いのはそんな背景があるからです。

といっても、専門学校へ行くことが必ずしもマイナスになるわけではありません。専門学校を卒業すると「専門士」の資格がもらえ、これは短期大学士と同じく大学への編入資格となります。最初に入りやすい短大や専門学校に入学してから、大学への編入をめざすという道もあるのです。

■【5】都心の有名私大 vs 地元の国公立大

医・歯学部など理系なら国公立が圧勝

地元の国公立大であれば、親は子供の生活費を仕送りする必要がないので、経済的には楽です。大学選びは就職まで視野に入れて行わなければなりませんが、地方の国公立大の場合、地元企業とのつながりが強く、地元に就職先が確保されているという点も魅力です。そのため最近は人気が高まり、競争も激しくなっているようです。

学費の面でも国公立は有利です。ただ、文系と理系とでは事情が異なります。というのは、私立大は学部によって学費の額が違いますが、国公立大のほうは文系・理系、さらに医学部・歯学部でも学費が変わらないからです。

たとえば私立大医学部は、初年度納付金の平均は700万円。82万円の国公立大と比べれば9倍近くに達します。一方、文系については、私立大でも初年度の納付金は123万円。国公立大との差は40万円ほどに留まります。その差が大きいという家庭ももちろん多いでしょうが、首都圏にお住まいの方なら、生活費の分を考えると、下宿させてまで地方の国公立大に行かせるより、都心の私立大のほうが費用は安く上がりそうです。

もう一つ考えておかなければならないポイントは、「地方ではアルバイトの口が少ない」ということです。基本的にサービス業が少なく、家庭教師をするにしても、バス路線もないところで、「車で来てね」と言われたりします。そういった事情も含めて、生活費込みでいくらかかるのか、総合的に試算しておくべきです。

■【6】奨学金利用 vs 全額親負担

進学ローンと考えればとてもお得な金融商品

日本で奨学金といえば日本学生支援機構の借りるタイプの奨学金です。これは学生自身の成績によって、無利子の「第一種」と利子がつく「第二種」に分かれます。利子の上限は年率3%で、昨年度末に借り終わった学生は利率固定方式0.16%、利率見直し方式0.10%と、ごく低い水準でした。奨学金を進学ローンと考えれば、有利な金融商品といえるかもしれません。ただ、奨学金という名の借金を背負うのは子供自身。借りるにしても、元本を大きくしないことを心がけるべきです。

奨学金を利用しないで大学へ行かせるには、子供が生まれた時点でお金を貯め始めることです。そのための方法の一つが学資保険。生まれたらなるべく早く加入し、18歳になるまで積み立てます。元本割れしない商品を選ぶことが大切で、満期時には普通預金の金利分よりも多く受け取れる商品があります。

もっとも、普通預金の金利は市中金利が上がれば自動的に上がりますが、学資保険は最初に契約した金利に固定されます。ですから積み立てている最中にインフレになったり、金利が上がったりした場合には不利になりますが、日本ではもう20年近くもデフレが続いています。そのためもあって、最近子供が大学に進学した人たちに話を聞くと、みな「学資保険に入っていてよかった」と口をそろえています。

———-

菅原直子
ファイナンシャル・プランナー、教育資金コンサルタント。外資系生命保険会社勤務などを経て、1997年より現職。

———-

タイトルとURLをコピーしました