全国で空き家が増えている。国の調査では、賃貸用などをのぞいて人が長い間住んでいない家は349万戸あり、人口減の時代を迎え、今後はさらに増えると見込まれる。売りたくても売れず、管理の費用や手間がかさむといった悩みも。相続放棄などで放置され続けると、周辺環境の悪化や倒壊などにつながることもあるため、国も対策に乗り出す。
5年ごとの総務省の住宅・土地統計調査(2018年)によると、空き家は全国に849万戸あり、住宅の総数に占める割合は13・6%。野村総合研究所の予測では、空き家の取り壊しが進まない場合、38年にはさらに31・5%に上昇する。特に、持ち家率が高い団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる25年以降、急増する恐れがある。
別荘や賃貸用の住宅などをのぞき、人が長い間住んでいない空き家は349万戸(5・6%)で、高知、鹿児島、和歌山、島根など6県で総数の10%を超えている。木造一戸建てが240万戸で、「腐朽や破損あり」も約101万戸ある。
国は管理状態が悪い空き家の修繕や建て替えを促すため、固定資産税の優遇措置を見直し、税負担を増やす検討を始めた。今月末の有識者会議で制度見直しを決め、早ければ来年度中に新たな課税を始めたい考えだ。
■実家が空き家に、処分したくても…
空き家に関する相談などを受け付ける「NPO法人空家・空地管理センター」(埼玉)には、実家が空き家となり、悩む人からの相談が多く寄せられているという。思い出の詰まった実家を処分することへのためらい▽「家を残してほしい」という親の思い▽家財整理や手続きが面倒――など、様々な問題が背景にある。共有名義の場合、所有者の意見が合わず、売れないことも少なくないという。
相続放棄され、誰も管理しなくなってしまうこともある。司法統計などによると、21年の相続放棄の件数は約25万件。10年前の1・5倍と、亡くなる人の増え方を上回る勢いだ。地方の地価低迷や、住む予定がない、親族ではあっても関係が疎遠、といったことが背景にあるとみられる。
■新築重視の政策のツケ 家の「終活」支援を
15年には空き家対策特別措置法が施行され、空き家が危険な状態にある場合は、自治体が略式代執行で取り壊すこともできるようになった。相続放棄された物件については、自治体が民法の「相続財産管理人」などの仕組みを使って売却することもある。ただ、空き家問題に詳しい明治大の野澤千絵教授(都市政策)によると、売れなければ手続きの費用を税金でまかなう必要があるため、地方の資産価値が小さい家は放置されがちだという。
国はこれまで、住宅ローン減税などの優遇措置で、新築重視の政策をとってきた。野澤教授は「大量に造ってきた住宅の終末期に目を向けた政策を講じてこなかったツケがきている」と指摘する。「造ることに比べて、住宅の『終活』に向けた政策が圧倒的に不足している。解体費用を支援する基金をつくるなど、住宅をたたむことへの施策を考える必要がある」と話す。