ネット上のクチコミは極めて有効な宣伝手段。かつて『食べログ』のランキング操作などで話題になった“やらせカキコミ”をする代行業者が、いまだ暗躍しているという。その実態を追った。
東京都内で「ネットやらせカキコミ屋」を統括するA社の大林薫氏(仮名・48歳)は、独自に研究したカキコミ手法でクライアント(依頼主)の要望に応え、対象商品がネット上で話題をさらうようにしている。
カキコミを依頼してくるクライアントとはメールと電話で打ち合わせを行ない、顔を合わせることはめったにない。着手金は5000円で、カキコミ1件1500円を最低限の目安に仕事を受ける。
「月の売り上げはだいたい200万から300万円くらい。投稿したログ(ネット履歴)は完全にクリーニングし、足跡を残さないように徹底します。メールを送るのも海外にあるサーバーを経由して行なっています。以前はシンガポールや中国経由でしたが、今は違う国から行なっています。このところ、警察もサイバー犯罪に力を入れているようですが、私たちの足跡を見つけるのは、かなり困難でしょう」(大林氏)
では、実際のカキコミは誰がどうやって行なっているのか?
「カキコミ作業をする、いわゆる“書きコ”は200人くらい抱えています。『PCBでの簡単な作業をする方募集』との文句で人を集めて、応募者のメインは学生や主婦。なかには定年退職した年配の人もいますね。当然、初心者が大半なので、文章のパターンはこちらでひな型を用意します。最後に誤字脱字などを直すフィニッシャーもいます」(大林氏)
書きコ志望者から応募のメールが来ると、簡単なテストを行なう。それは、商品や店舗の概要をみて、感想を書かせるというもの。
「例えば、飲食店なら店の雰囲気や味を簡単に伝えます。それで想像を膨らませてもらって、架空の感想を書いてもらう。およそ150字くらいです。それでうまく表現できる人を優先的に採用していますね」(大林氏)
実際のカキコミ作業について、書きコのバイト経験がある田所雄介氏(仮名・24歳)に聞いた。田所氏は缶詰やお菓子を販売している食品のネット通販サイトのやらせを担当。商品のリストと商品説明が一日に50種類くらい届いて、100文字で50円ほどが相場だったという。
「かなりきついバイトでした。コツは『ここがダメだけれど、ここがすごくいい』と、悪い点といい点を同時に書くこと。難しいのが家電で、『このサーキュレーターは、ゴツくてカッコいい見た目なのに、音もとても静か』というベタ褒めコメントになりがち。商品を使ったことがないのに、いかにも使っているふうなコメントですから、時間に追われながら作業していると、語彙が減ってきて困りました(苦笑)」(田所氏)
収入は2日がかりで2万字ほど書いて、ようやく1万円という微々たるもの。
「僕の場合は就活しながらやっていたのですが、なんともむなしいバイトでした。あと、指定されたHPを『100回クリックしてほしい』というようなオーダーもありました。実際、そのHPは検索すると上位にくるようになっていました。出会い系サイト、風俗店サイト、競馬予想サイト、自己啓発セミナーなど、あらゆるカキコミを担当しましたね」(田所氏)
決して好条件とはいえないバイトながら、書きコへの応募は途切れない。ネットで口コミ評価が必要とされる限り、やらせ業者が消えることはなさそうだ。
(取材/小林俊之)