日本経済新聞社が実施した世論調査の結果が20日の朝刊に載っている。それを見ると、自己中心的で政府依存の「ぶら下がり型」日本人が増殖している様子が うかがえる。「政府は自分のために何でもやってほしい」「自分の負担になりそうなこと、自身に危険が迫りそうな危ないことは避けたい」と考える人々だ。
国の借金が1000兆円を超えていることを考えれば、消費税を上げないのなら歳出削減するしかないはず。だが、同世論調査によれば、「安倍内閣に優先処理してほしい政策」のトップは「年金などの社会保障」である。
「社会保障を削減せよ」と要請しているのなら消費税引き上げ反対とつじつまが合うが、実際はその逆で「社会保障を充実せよ」ということだろう。
一体どこからその財源を引き出せというのか。「金は出したくない、でも老後の生活は保障せよ」というのでは甘ったれでしかない。恥を知る、まともな大人の言えることではない。
原発再稼働も「進めるべきだ」は30%。「進めるべきではない」が58%もある。一時再稼働をした関西電力・大飯原発を除くと全国の原発が動かなくなって 3年以上になるが、それでも停電騒ぎは起こっていない。「電気代が多少、上がっている点を除けば、原発なしでやっていける」といった(誤解に基づく)安心 感が原発再稼働反対の背景にある。
だが、停電がないのは老朽火力発電所がフル稼働している恩恵が大きい。老朽度を考えれば、いつ故障→停電になるかはわからない不安がつきまとう。電気代も 現在の価格は「原発が再稼働している」という(架空の)前提で据え置いている場合が多い。本来ならもっと値上げしなければ電力会社の経営は成り立っていか ないはずなのに、政治的判断から価格を抑えているのである。
今は供給過剰気味で値下がりしているが、原油や天然ガスが再び高騰する可能性も常にある。「イスラム国」といった過激派が横行する中東では紛争拡大からホルムズ海峡封鎖などの事態が発生する懸念も大きく、原油の供給途絶の不安は小さくはない。
さらに、温室効果ガスの削減という環境問題の観点からも火力発電ばかりには頼れない。太陽光、風力による発電など再生エネルギーの普及を進める必要はある が、生産コストの高さや「お天気次第」という不安定性を考えれば、少なくとも今後20年は原発に一定程度の電力を依存しなければならない。
それらを考慮したうえでの「原発再稼働反対」なのか。
「集団的自衛権行使に関する法案成立」に「賛成」は29%、「反対」の52%を大きく下回っている。中国の脅威や北朝鮮の核武装を考えれば、軍事防衛に 当って米国との連携を強めざるをえない。イザというときは自衛隊が米軍を助ける場面も出てくる。それを円滑に進めるために集団的自衛権の行使がある。
でも、自分たちの危険が増すような法案は賛成しない。自分たちは戦わず、徹底的に米軍に守ってもらう。そうした虫のいい、居心地の良い状態をいつまでも保っていたい、という対米依存心理が背景にある。
「米軍普天間基地の辺野古移設」を「計画通りに進める」に賛成なのは36%。「見直すべきだ」が47%で、「移設反対」が「賛成」を上回っている。
回答者の大半は沖縄県民ではない。それなのに移設反対が多いのは「辺野古移設に反対している沖縄県民の意思を尊重すべき」というエエカッコシーの無責任さ に加え、「自分の近くにも米軍基地はあってほしくない」というジコチュー、NIMBY(ニンビー)人間の身勝手さが背景にある。
NIMBYは「Not In My Back Yard(自分の裏庭以外なら)」の略だ。「施設の必要性は認めるが、自らの居住地域には建てないでくれ」と主張する住民たちや、その態度を指す。
ならば、沖縄以外の人々は米軍基地が辺野古で構わないはずだが、そこはエエカッコシーが顔を出す。「沖縄県民が『最低でも県外』と言っているのだから、そうしたらどうか」というわけだ。
だが、自分の県に来るのはもっとイヤだ、と「ニンビー」人間は拒絶するに違いない。
原発についても必要なことを理解している再稼働反対派も少なくない。でも、危険な「迷惑施設」だから止めてくれ、少なくとも自分の近くでは稼働させないでくれというのである。
「代案は」と聞くと「再生エネルギー」と答え、「それでは当面は解決しない」と反論されると「とにかくイヤだから、政府の方で何とかうまくやってほしい」と居直ってしまう。
これが「ニンビー」でジコチューな「ぶら下がり型」日本人の特徴である。昔から見られるタイプだが、それが過半数に達しているとすれば、困った現象と言わずばなるまい。
だが、それほど深刻に考える必要はないのかも知れない。実はぶら下がり人間たちも、自分たちの身勝手さをうすうす感じている。当面原発が必要なのも、消費税をある程度は上げざるをえないことも理解している。沖縄米軍基地も、集団的自衛権も必要なことはわかっている。
その証拠に、同世論調査では安倍内閣の支持率は52%と3月の前回調査から1ポイント上昇している。不支持率も2ポイント上昇しているが、35%にすぎな い。集団的自衛権行使、消費税率引き上げ、辺野古移設、原発再稼働という安倍政権が進める政策に対し反対意見の方が多いのに、全体としては安倍政権を支持 しているのだ。
要するに「できることなら自分に火の粉が降りかかったり、不安なことがないようにしてもらいたい。でも、できないなら仕方がない。これ以上の無理は言いま せん。いろいろ見渡すと、全体的には当面一番信頼できそうなのは安倍政権だから、最後はあんた方に従うよ。でも、とにかく安全と平和と経済のことは頼んだ よ」といったところが「ぶら下がり人間」の気持ちだろう。
だから、安倍政権は支持率が過半数を超えていることに自信を持って、反対意見があろうともわが道を行ってもらいたい。
英国のサッチャー政権も多大の反対を押し切る形で規制改革、行政改革を断行して成功し、長期政権を築いた。
それと同様に安倍政権も、「今、日本に必要なこと」は党内外の反対を押し切ってでも進めた方が良い。結果として信頼を勝ちえ、長期政権につながると思われる。前々回のブログで書いたように、酒類の安売り規制といった規制改革に逆行するような愚策は決してとるべきではない。