変わるネット業界「天下続かぬ」 日本ヤフー・米グーグル提携

日本のヤフーと米グーグルがインターネット検索・広告事業の提携を発表して約2カ月が経過。具体的な提携事業が始まる年末をにらみ、独占を懸念する法律家や学者からは、提携を認めた公正取引委員会に対する疑問の声が強まってきた。一方、ネットでは新サービスが続々と生まれており「両社の天下も長くは続かない」(業界関係者)との見方も出ている。
 高まる公取委批判
 「2008年に米司法省が違法と判断した米ヤフーとグーグルの提携に酷似している」
 独占禁止法などの専門家が21日に都内で開いたセミナー。日本の公取委に当たる米連邦取引委員会の元委員であるパメラ・ジョーンズ・ハーバー弁護士は、両社で日本の検索市場の9割を握る今回の提携について、健全な競争を阻害する恐れが強いと指摘した。
 公取委は、今年7月、両社の提携が発表されると「提携後もそれぞれの事業は独立して行われるため、ただちに独禁法上の問題にはならない」と表明。公取委は両社から事前相談を受けていたという。
 だが、21日のセミナーでは専門家から公取委の対応を批判する声が続出。関西大大学院の滝川敏明教授が「事前に広告主や競合他社の意見を聞くべきだった」と苦言を呈したほか、多田敏明弁護士も「(競争状況の)調査を掘り下げるべきだ」と述べた。
 閲覧型→参加型へ
 今回の提携は、ヤフーがグーグルの検索技術と広告配信システムを導入する内容で、実質的にグーグルが市場をほぼ独占することになるとみている関係者が多い。
 グーグルのライバル、米マイクロソフト(MS)も今回の提携は競争を阻害すると主張。公取委に対し、判断を見直すように働き掛けを強めている。ある弁護士は「公取委は今は事態を静観しているが、提携サービスが始まり実際に何か問題が出た場合は、態度を変える可能性がある」との見方を示した。
 日本のネット業界を制したかに見えるヤフーとグーグルの連合。だが、業界内には「競争の土俵が変わってきた」との声も聞かれる。つぶやきを投稿する交流サイト「ツイッター」の流行などがあり「ネットは閲覧型から参加型へサービスの中心が移ってきている」(バイドゥの添田武人マーケティング部部長)からだ。その流れの中で、検索の重要性が相対的に低下しているという。
 ネット広告についても、広告事情に詳しい宣伝会議の田中里沙編集室長は「時流をつかんで新たな広告の仕掛けを提案すれば、グーグルの牙城を切り崩すチャンスは十分にある」と指摘。松下満雄東大名誉教授も「(新サービスが発展すれば)長期的には競争のバランスが取れていくかもしれない」と話している。
■犯則・差別化に一役 書店内フリーペーパー人気
 工夫を凝らした本の販売促進用フリーペーパーを書店で配布する動きが広がっている。従来型のPR誌は広告色が強いが、新しいタイプは読書が一層楽しくなる話題が満載で、本好きの購買意欲を刺激する内容。電子書籍やインターネット販売の拡大で紙の本は売れなくなっているが、手にとって読める紙の特性を生かしたフリーペーパーに業界の期待がかかっている。
 筑摩書房は8月、歌人の穂村弘さんのエッセー集「絶叫委員会」の増刷に合わせ、B5判のフリーペーパー「ほむほむ新聞」を7000部発行した。本編から漏れたエピソードや「お蔵入り」になった装丁案など未公開情報が話題を呼び、配布書店は当初の約130店から約200店に拡大。1カ月で在庫が底をついた。
 「絶叫委員会」は4刷2万部と好調で、筑摩書房はフリーペーパーの増刷を検討中だ。筑摩書房宣伝課は「反響は予想以上。読者の開拓につながれば」と期待している。
 8月中旬から書店に並んだ「タツル・ペーパー」は、「日本辺境論」などのベストセラーで知られる内田樹(たつる)さんの担当編集者らが協力して制作した無料冊子。著者インタビューや自筆イラストを掲載している。
 仕掛けるのは出版社側だけではない。三省堂書店神保町本店(東京)は、村上春樹さんのベストセラー小説「1Q84」の第3巻「BOOK3」の販促用に約20ページのカラー冊子を4000部制作した。店員3人が作品の舞台を取材し、カラー写真入りで紹介。担当者は「話題作だけに、他店との差別化が必要」と意図を語る。冊子の有無の問い合わせがあるほどの評判だという。
 出版不況やネット通販の拡大で、書店の数が減っている。出版社のアルメディアによると、9月時点の書店数は1万5261店で、ピークの1999(平成11)年から3割減った。一方、昨年度の電子書籍市場は前年度比で2割以上も伸び、紙の本を出版・販売する業界の不安は大きい。
 「タツル・ペーパー」を企画したミシマ社(東京)の三島邦弘社長は「自然に目に入り、手に取りやすいのが魅力」と書店内フリーぺーパーの利点を説明する。書店の集客力を高めたい出版社側と、付加価値で差別化を狙う書店側の思惑が合致し、動きはさらに広がりそうだ。

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