夏なのに戻りガツオ? 宮城・気仙沼港で脂乗った魚体が連日の水揚げ

全国トップの生鮮カツオ水揚げを誇る宮城県気仙沼市の気仙沼港で、秋の「戻りガツオ」にも匹敵するほど脂が乗った魚体が連日水揚げされている。春から夏にかけて漁獲されるカツオは本来、あっさりとした味わいの赤身が特徴。例年よりかなり北の青森県八戸沖に漁場が形成されており、海洋環境の変化が影響しているとみられる。
(気仙沼総局・藤井かをり)

 「こんなに北に上るなんて初めてや」。3日朝、気仙沼港にカツオとビンチョウマグロを水揚げした三重県の一本釣り船第18清福丸の水谷数也漁労長(60)は驚きを隠せない。例年この時期の漁場の最北は金華山沖周辺で、八戸沖での操業は例がないという。

 5日に水揚げした高知県の一本釣り船天龍丸の岡本茂漁労長(54)も「肉質が良く、単価高で助けられている」と顔をほころばせる。「水温が高い海域にとどまって南下せず、越冬した群れではないか。温暖化の影響としか考えられない」と複雑な表情も浮かべた。

 気仙沼市内では13日から、恒例の「気仙沼かつお祭り」が始まる。飲食店関係者からは戻りガツオのような味わいに、驚きと喜びの声が上がる。

 市内で居酒屋を経営する尾形宣洋さん(43)は「この時期にこれだけ脂の乗った刺し身はめったに食べられない。お客さんにもお薦めしている」と話す。

 気仙沼漁協によると、6月末時点の気仙沼港の生鮮カツオ水揚げ量は前年同期(2596トン)に比べ、53%増の3985トン。トップを走る千葉県の勝浦港(4435トン)との差は450トンに縮まり、28年連続水揚げ日本一を射程に捉える。

 昨秋は三陸沖に好漁場が形成され、9月下旬ごろから戻りガツオの盛漁期を迎えた。関係者は昨シーズンに続く豊漁を期待しつつ、漁況異変による先行きへの影響を注視している。

海流異変で黒潮北上 高い海水温も影響

 なぜ、7月に脂が乗った肉質の良いカツオが大量に漁獲されているのか。漁業情報サービスセンター(東京)は、気候変動による海流の影響を指摘する。

 黒潮は通常、千葉県の房総半島沖で東に向きを変えて「黒潮続流」となるが、現在は東北沖を異常な規模で北上している。黒潮続流から暖水の渦が分離して八戸沖に広がり、カツオの群れが取り込まれているという。担当者は「海水温が高い水域でエネルギーを消費せず、餌もしっかり食べているので脂が乗っているのではないか」と推測する。

 茨城大の二平章客員研究員は、海外の巻き網船による熱帯域での乱獲で資源量が減った影響が原因との見方を示す。絶対数が減ったことで成長のサイクルが進みやすくなり、脂が乗る時期が早まっていると指摘する。

 「産卵に向けて脂を蓄えたカツオは、先行して北上する傾向にある。これまでは千葉県沖周辺までしか上がってこなかったが、暖水が強いため北上し、八戸沖で漁獲されている」と話し、「おいしいカツオが食べられるのはうれしいが、決して喜ばしい事態ではない」と警鐘を鳴らす。

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