宮城県多賀城市が経済対策で発行した市民限定の10割増し商品券の追加販売会に購入希望者が殺到し、長蛇の列や交通渋滞が発生したほか、熱中症の疑いで2人が搬送される事態になった。深谷晃祐市長は「業務見通しの甘さに起因する」と釈明する。どこで見通しを誤ったのか。混乱を招いた運営を検証した。(多賀城支局・石川遥一朗)
行列は敷地外まで
10日の追加販売では商品券を求める市民が朝から並び、30分繰り上げた午前9時の開始時には敷地外まで列が延びた。最大で2000人を超えたとみられる。
「先着順で販売することは任期中には二度とない」。12日の市議会で深谷市長は何度も頭を下げた。
なぜ、競争心をあおるような先着順にしたのか。市によると、往復はがきなどの抽選式も候補だったが、先着順より手間や時間がかかると判断したという。
だが、要する日数の比較など具体的な精査はしなかったという。「今まさに困っている時に、いち早く資金を投入したかった」と市の担当者は振り返る。経済支援策としてのスピード感を優先するあまり、拙速に混雑を生む方式を選んだ。
ニーズ読み違え
需要も見誤った。
先行販売で市は最低でも全世帯(約2万8000)の7、8割が購入すると見込んだが、実際は約6割にとどまった。「関心が高くないと感じた。売り切れるか心配さえあった」(担当者)。市は敷地内の約800人分のスペースで行列を管理できると見積もった。
しかし、予想以下とはいえ約1万8000世帯が先行販売で買い求め、うち約5000世帯はその初日に窓口を訪れている。「捉え方を見誤った」と担当者も認める。
さらに、皮肉にも整理券の配布が混雑を助長した。
追加販売は市広報誌9月号の持参を条件付けた。代理購入を含め広報誌3部までを認めたが、「代理分を忘れた」「広報誌が届いていない」との声が続出。身分証を確認するなどしたため、整理券の配布に時間を要した。広報誌は住民基本台帳に基づいて郵送しているわけではなく、そもそも条件として適切ではない。
職員数も圧倒的に足りなかった。市民の苦情対応などに追われ、大混乱していた現場から市長や副市長への報告もなかったという。
各地でトラブル
商品券の販売を巡る自治体トラブルは少なくない。
隣の塩釜市は、新型コロナウイルス下で10割増し商品券事業を4回実施している。20年8月の第1回事業で先着順の追加販売をしたが、混雑したため以降は追加販売を行っていない。広報誌に引換券を折り込むなどもしたが、多賀城市と同様に「広報誌が届いていない」との問い合わせがあり別の方法に切り替えた。
他にも20年10月に南三陸町で、今年8月下旬には薩摩川内市(鹿児島県)での混乱が話題になった。他自治体の事例の研究、それを基にした想定が多賀城市には不十分だった。
「今後はありとあらゆる事態を想定して取り組む」と語る深谷市長。不本意な形で全国にその名を広めた結果責任を真摯(しんし)に受け止めなければならない。
[多賀城市の10割増し商品券]地域経済活性化と家計支援を目的に、市が多賀城・七ケ浜商工会に委託して実施。1セット1万円分を5000円で購入でき、市と隣接する七ケ浜町の小売店などで利用できる。7月30日~8月7日、3万セットを1世帯1セット限定で先行販売。約1万2000セットが売れ残り、1世帯2セットを上限に追加販売した。