大学を取り巻く環境が、「2018年問題」を受け、激変しそうだ。少子化の影響で18歳人口(3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者の数)の減少が、18年以降に加速するのだ。
18歳人口のピークは、1966年の249万人(文部科学省「学校基本調査」より/以下同)であり、いわゆる団塊の世代に当たるが、それが93年の205万人を最後に200万人を割り込み、14年は118万人にまで減少。30年代には100万人の大台を割り込む見通しとなっている。18年から31年までの間に33万人減少し、それに伴い大学進学者数は17万人減るともいわれている。学生数1000人規模の大学が150校以上も淘汰されてもおかしくない状況となるのだ。
こうした事態を深刻に受け止めているのが大学関係者だ。90年代の大学数は国公立、私立を含め約500校だったが、現在では約780校と1.5倍に膨れ上がった。にもかかわらず18歳人口は90年代から4割も減少している上、さらに減るというのだから、大学の経営は当然厳しくなる。受験生集めのために都心回帰を進め、ユニークな学科の新設、授業料引き下げなどの取り組みをして生き残りを図っているが、淘汰の嵐は吹きやみそうにない。
「増えすぎた大学の淘汰は始まっています。現在、私立大学の約4割がいずれかの学部学科で定員割れを起こし、廃校・閉校に追い込まれる大学も出てきています。つい最近も聖トマス大学の廃校が報道されましたが、東京女学館大学のような名門中学・高校を持つ大学でさえ16年の閉校が決まっているのです。今後、知名度がない、特色・個性がない大学は、ますます危機を迎えるでしょう。有名私大といえども安閑としていられません。大学経営にとって、受験料収入は大きな収入源。受験生人口の減少に加え、両親の経済問題などもあり、受験機会が減ります。受験料収入や授業料収入の減少で経営難に陥る大学が増えてくるのは間違いありません」(大学問題に詳しいジャーナリスト)
●SGUが生み出す新たな大学格差
そんな中、この秋に、大学関係者にさらなる衝撃が走った。文科省が発表した「スーパーグローバル大学(SGU)」の選定結果だ。文科省が肝いりで進めるスーパーグローバル大学創成支援事業は、「世界レベルの教育研究を行うトップ大学や、先導的試行に挑戦し我が国の大学の国際化を牽引する大学など、徹底した国際化と大学改革を断行する大学を重点支援することにより、我が国の高等教育の国際競争力を強化する」(文科省)ことを目的としている。
トップ型には東京大、京都大など旧帝大や早稲田大、慶応義塾大など13校が選ばれ、牽引型には東京外国語大、東京芸術大、上智大、明治大、立命館大など24校が選定された。
「公立の会津大や国際教養大など、すべての学位論文の英語執筆や1年間の海外留学を義務付けたりするなど、革新的な取り組みをしてきた地方大学が選ばれたことが話題になっています。私立では東洋大、創価大が食い込んだ一方で、中央大、同志社、関西大などが漏れた。国立では一橋大や神戸大が選ばれませんでした。トップ型には10年間で42億円、牽引型には17億円を上限として補助金が支給されます。大学にとって、この補助金はありがたい。それ以上に、SGUというブランドが受験生を集める武器となる。SGUが新たな大学格差の始まりになります」(前出ジャーナリスト)
18年問題とSGUの出現により、大学の勢力分布図、序列が激変する可能性が高まってきたのである。
●企業側も対応迫られる
18年問題は、企業や産業界にとっても若年労働力の供給減という切実な問題をもたらす。企業の新卒採用者数は景気動向に大きく左右されるが、ベースとなる労働力人口が減ることは避けられない。企業の採用担当者は語る。
「今のところ具体的なことは考えていません。ただ、優秀な学生を採用するための対策が必要になってくるのは間違いないです」(食品)
「採用チームは問題の認識は持っていますが、具体的な施策はこれからです」(金融)
採用現場に大きな影響が顕在化するのは5年以上先だが、その時にどのような事態が想定されるのか。
「全体として受験者数が減り、大学入学のハードルが下がることで、学生の質の多様化が進みます。基礎学力やコミュニケーション能力など、社会人としての基礎的な力が不足したまま、学生が社会に放り出されるケースが今以上に増える心配があります。そうなると、ますます雇用のミスマッチが大きくなります。一方で、上澄みの学生の獲得をめぐり、企業側は就職サイトを通じたエントリーといった今の採用方式を打ち破る先進的な採用方式を考えざるを得なくなると思われます」(みずほ総合研究所政策調査部主任研究員・大嶋寧子氏)
能力の高い学生をめぐる争奪戦が高まる一方で、若年労働力の全体の質の低下が懸念される。
「大学もハローワークと提携するなど、キャリア支援に懸命に乗り出していますが、これに乗ってこない学生も少なくありません。ミスマッチの拡大を防ぐためには、大学だけではなく小学校、中学、高校段階からキャリア教育を充実させ、働くことへの準備を子ども時代から着実に進められる環境が必要です。企業側が、どういうかたちで協力していけるかが課題です。政策的には、奨学金制度の充実が欠かせません。経済格差が広がる中で、やる気も能力もある若者の進学をいかに支援するか。国だけでなく民間も協力して未来人材育成基金のようなものを創設すべきでしょう。若者に増えている非正規社員の問題については、職種限定型の正規社員の活用を推進するほか、非正規社員の社会保険料や労働保険料のうち企業負担を増やすなどして、企業が非正規社員の採用よりも正社員の採用を選択するよう促すことも必要ではないでしょうか」(同)
18年問題は大学だけでなく、企業、産業界にも大きな変化をもたらすことは間違いないようだ。
(文=編集部)