大学生の72%が「LGBTQなど性やジェンダーに配慮する」…Z世代が差別的な発言をしない理由は? 若者の裏にある”二面性”

「スノボー」「カラオケ」「アムラー」そして「タピオカ」……いつの時代も流行の中心にいるのは若者である。

 欧米で生まれた「Z世代」という言葉が昨今日本でもよく使われるようになった。「Z世代」とは、1996年~2012年の間に生まれた若者を指す言葉で、年齢で言えば現在11歳~27歳の世代に当たる。

 ここでは、若者の消費文化を追ってきた廣瀬涼氏が、Z世代ならではの価値観や行動を深掘りして徹底解説した『 あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く 』より一部を抜粋して紹介。Z世代が今、消費行動の軸にしている価値観とは——。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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Z世代は「買い物で社会貢献したい」

 2022年元旦の日経MJの1面に「Zが消費を変えていく」との大きな見出しが躍っていた。日経MJが16~26歳約5000人に行ったアンケート調査によると、およそ3割が、価格が高くなったり、不自由になったりしても、自分の消費行動、つまり買い物で社会貢献したい、と考えているという。

「買い物で社会貢献」というと難しく聞こえるかもしれないが、簡単にいえば、リサイクル商品やエコ商品などの環境に配慮した商品やフェアトレード商品を選ぶ、買い物時にエコバッグを利用するといったことを指す。フェアトレードとは、発展途上国との貿易において、フェアなトレード(公正な取引)をすることにより、生産者の生活を支援することである。

 我々の生活には、「消費」と「廃棄」が密生している。消費結果は我々の通った道であり、ルーティンやスピリットそのものである。何か社会貢献しようとなると、ボランティアなどが思い浮かぶが、生きていることと密着した「消費」において社会や環境に配慮することがサステナブルと認識しているのかもしれない。

 このような若者の社会に貢献したいという心理は「ウェルビーイング」という概念が大きく影響していると筆者は考える。

Z世代が追及する「ウェルビーイング」

 ウェルビーイングとは、心身と社会的な健康を意味する概念で、満足した生活を送れている状態、幸福な状態、充実した状態などの多面的な幸せを表す。瞬間的な幸せを表すHappinessとは異なり、「持続的な」幸せを意味しており、Z世代は、自身も他人もウェルビーイングであることを追求しようとする傾向がある。

 Z世代の特徴に「共闘」の意識がある。Z世代以前の世代は、小さい頃から、地球温暖化に配慮しなくてはいけない、差別はしてはいけないなどと「習ってきた」が、自分の世界のことではない、傍観者としての立場だったのではないだろうか。しかしZ世代は、他人と競うより自分を高めるという教育のもとで育っている。また、若くして東日本大震災を経験しており、「人々がともに生きていく」という意識が当然のものと思っている。そしてSNSにおいて、世界中で起きている不平等の問題や、誰かが権利を得るために立ち上がる場面を目にし、多様性の重要性や、人の価値観は十人十色であることを実感している。

 昔は、社会的な変化を生み出そうとしても、自分1人では達成するのが難しく、マイノリティになりがちだったが、SNSを開けば自分のような志を持った人が大勢いて、実際に世界を動かしていることがわかる。自身の小さな行動でも、その志を持つ者が集えば達成できると考えているのかもしれない。

SDGsへの関心

 このような意識は、SDGs(持続可能な開発目標)に対する国をあげての取組みも大きな要因になっていると筆者は考える。SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、貧困問題、環境問題、多様性など世界が抱える問題に対する17の国際目標である。政治経済の範囲に留まらず、昨今ではテレビのトピックとして取り上げられたり、大学の講義テーマとして扱われることも多く、若者にとっても身近な言葉になっている。

 産業能率大学経営学部小々馬敦研究室が全国の大学生を対象に実施した調査によれば、およそ半数がSDGsに関して大学の授業で学んだと回答している[図表5−1]。

 また、実際にSDGsに関して共感し実行していることに関しては、「商品はなるべく最後まで使い切る」「食べ残しがないように心がける」といった項目が6割を超えているが、それ以上に、「エコバッグを持ち歩く」が56・6%という結果に筆者は驚愕した[図表5−2]。2020年7月より全国でプラスチック製買物袋の有料化が決まり、買い物のたびに袋代を支払うのは無駄な出費なのかもしれないが、それでも大学生の2人に1人がカバンにエコバッグを忍ばせていると考えると、単純に「えらいなぁ……」と感心せざるを得なかった。

 こういった「社会貢献をしたい!」という行動は、もちろん買い物以外にもみられる。同調査によれば、SDGsに関して当然しなければならないことだと認識している項目として、72・9%が「LGBTQなど性やジェンダーに配慮する」をあげている[図表5−3]。

若者が「差別的な発言」をしないように気をつけている理由

 SNSにおいて、若者は自ら情報発信したり、共感できる投稿をシェアしたりしているが、差別的な発言とならないように気をつけている者は多い。これには、二面性があると筆者は考えている。

 まず、常にSNSによる炎上リスクを認識しているという環境要因である。SNS社会に身を置く我々は、ある意味、常に監視されているといっても過言ではない。自分の言動が差別的であると認識されてしまった場合、攻撃対象となって社会的制裁を受けることもある。

 そのようなSNSによる炎上事例を反面教師にして、差別的な発言をすることに対するリスクを認識しているわけである(これは、「炎上したくないという動機によって差別発言が抑制されているから、差別をしない」という意味ではないことに留意されたい)。

 次に、世間で多様性と呼ばれているものの多くはこれまで表層化していなかっただけで、意外と自身の周りで起きていると若者は認識している。だから自身が当事者でなくとも、他の人たちの生き方を否定しない。むしろ、権利や差別を訴えている人たちに対して、声を上げていることを評価し、応援したいと感じるようだ。

 SNSで声を上げやすいため、友人や知り合いがそのような問題の当事者だと認識できるようになったことも大きいかもしれない。SNSでは「いいね」やシェアによって応援が可視化され、発信者の自己肯定感(存在意義や価値)の高まりにつながる。個々がそれぞれ己の幸せを追求する「ウェルビーイングな社会」をあるべき姿だと考える若者は多い。だからこそ、ウェルビーイングを目指している人たちを茶化してはいけない、馬鹿にしてはいけない、排除してはいけない、という空気感が完成している。

コロナ禍に“社会貢献に繋がる消費”への意識が強まった

 そして、新型コロナウイルス感染症の流行という事態が起こった。移動や人との交流が制限され、学生は在宅で授業を受ける日々が続いたが、その間に生きること、そして自身の振る舞いと向き合うことができた人は多いのではないだろうか。

 医療従事者などのエッセンシャルワーカーの苦労を見聞きする機会が多かった一方で、物品の買い占めやマスク着用を巡る分断など人間の負の側面が露呈した。未曽有の事態を生きていくためには皆が共闘する必要があるという意識を強く感じた若者もいたのではないだろうか。そのなかで、自身の振る舞いを見つめなおすと、次の通り、その起点には「消費」があることに気がつく。

 身の回りに、無駄なモノ、使い捨てのモノ、一度しか使っていないモノがあふれている。

 →熟考して買っていなかった。

 →本当はいらないモノだった。

 この気付きにより改めて自身の消費行動を見直し、ウェルビーイングを追求するための共闘として「社会貢献につながるような消費をしたい」という意識がコロナ禍を通して強くなったのではないかと、筆者は考える。

「預貯金0円が17%」持ち家、車、高級ブランド…若者の“消費離れ”が起きている本当の理由とは へ続く

(廣瀨 涼/Webオリジナル(外部転載))

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