産業界で人手不足が続く中、特に情報技術(IT)分野を担う人材の不足が深刻化している。インターネット上に蓄積された大量のデータや人工知能(AI)の活用が注目されているためで、大手企業を中心に人材の獲得競争が激化する。国は、あらゆる産業や社会生活に革新的なITを取り入れて経済の長期停滞を打破する考えだが、地方の中小企業にしわ寄せが生じている。
鉄道駅や店舗数、犯罪件数などのデータから導き出される街の住みやすさは−。神戸市西区の兵庫県立大で、社会情報科学部の1期生約100人が自前のノートパソコンを使って基礎演習に取り組む。担当教員は「データ分析だけでなく、社会的課題の解決につなげる人材が求められている」と狙いを説明する。今秋からスーパーでの実地演習を計画している。
4月に同学部を新設した背景には、IT人材に殺到する企業の動きがある。兵庫県姫路市にある県立大工学部で就職支援を受け持つ教授は「2020年春採用で求人票が届いた企業の8割近くが情報化を担う人材を希望している。これまで縁がなかった食品メーカーなどの求人が増えた」と話す。
経済産業省は20年にIT人材が30万人不足すると試算。大手企業が人材を囲い込もうと初任給を引き上げる中、地方のIT企業は悲鳴を上げる。神戸市でシステム開発会社を経営する男性(60)は「会社説明会に来る学生が激減した。中途採用も厳しく、仕事は増えたが人が足りない」と嘆息。別のネット通販会社の経営者は「現場のまとめ役に育った30代の社員を東京のIT企業に引き抜かれた。芋づる式に流出しないよう気をつけている」と話す。
IT化の波は製造や小売りなどの現場にも押し寄せるが、多くの中小企業は専門の人材を置く余裕がない。神戸市で酒販店を営む男性(80)は、10月に予定される消費税増税に対応するレジシステムの更新で業者から500万円以上を提示され、神戸商工会議所に駆け込んだ。
男性は、ベンチャー企業のレジアプリをタブレット端末で利用する方法を教わり、初期費用も100万円以内に収まる見込み。販売データを毎日チェックできるため売り方を工夫できるといい「入り口の段階でつまずく中小零細企業が多いはず。技術支援が行き渡るようにすべきだ」と話す。
人材難を招いた原因として、派遣社員頼みの業界構造を挙げる経営者もいる。大阪のシステム開発会社の役員を務める男性(32)=神戸市=は「4重、5重の下請け構造があり、腰を据えて技能を高められずに働く人が少なくない。安定雇用と育成に力を入れる企業への優遇策を増やしてほしい」と訴えた。
増税の影響が懸念される中、21日投開票の参院選では地域経済の活性化やIT人材を巡る議論は低調だ。