大手コンビニがさらけ出す限界

全国チェーン展開している大手コンビニは「どこの店に行っても同じモノが同じ値段で買える」というシステム産業であろうとしてきた。商品開発についても、そのほうが大量に安く買い付けができるスケールメリットがあるため、標準化がやみくもに進められた。
【全体最適と部分最適のバランス】
標準化のやりすぎでなにが起きたというと、いわゆる〝キンタロー飴化〟だった。全国どの店に入っても同じ顔をもつ殺風景な景色が目に飛び込んでくる。全体最適をプリンシパル(原理原則)に掲げたゆえにはまった陥穽といえる。大手コンビニよりも一足早くその陥穽に落ちたのがGMS(総合スーパー)だった。人口、年齢構成、主要産業、嗜好、風習など様々な要素が絡み合うことで生じるエリア格差を軽視したからである。司令塔である商品本部の商品構成をほぼそのまま各店舗で展開させて、墓穴を掘ってきた。
翻って地方スーパーは地元特有の細かなニーズをしっかりと把握、それに柔軟に対応することで生き残ってきた。こうした現実はチェーンストア理論の限界を浮き彫りにした。GMSが人口5万人商圏を対象にマーチャンダイジングするのに対し、コンビニのそれは半径500メートルといわれる。100メートル離れれば、商圏はがらりと変わる。こちらで売れているモノが、あちらではさっぱり売れない。これがコンビニの常である。
中央集権による全体最適を追求する大手コンビニ本部は、千差万別ある各加盟店地域の実情に沿ったマーチャンダイジングを妨げてきた。地域のニーズとかけ離れたものも少なくない。コンビニは超狭域商圏に密着する商売だから、チェーン店として全国一律で同じモノを売る特徴を活かしながら、同時に超狭域商圏のニーズに合致するモノを提供しなければならない。
大手コンビニのファミリーマートの幹部に聞くと、3年ほど前からすべての店で同じことをしなければならないという考え方から、それぞれの立地条件にかなった品揃え、サービスを提供すべきという考え方にシフトしてきているという。とはいえ、こんな本音ものぞかせる。
「フランチャイズなのであまり差があるのはどうか、というジレンマに陥っています」
各店ごとに全体最適と部分最適の最適バランスをとる。そのバランスが刻一刻変化するのに細心の配慮を講じる。それが、これからの大手コンビニ本部の腕のみせどころであり、対応できないところは淘汰されていくのだろう。コンビニチェーンによっては、前述のファミマのように一部権限委譲を実行しているところもある。だが、加盟店の潜在能力はまちまちだ。本部が繰り出す指導が障壁となっていた店もあったはずだが、一方では、指導されるのに慣れ切ってしまい、本部依存症となっている店も多い。かといって本部が加盟店のマーチャンダイジングの自由について寛容になりすぎるならば、コンビニFCのビジネスモデルの崩壊を早めるだけのような気がする。
【大雑把すぎる大手の地産地消マーケティング】
大手コンビニは全国をいくつかのブロックに分けて、地域のニーズに合った商品開発に躍起になっているとメディアからよく伝えられる。その代表的なものがいわゆる「地産地消」企画である。なかにはサークルKサンクスの中部・北陸ブロックが開発して大ヒットさせたソースカツ丼のような例もあるが、企画本数のわりには空振りに終わっているケースがずいぶん多いと聞く。最大の原因は地産地消に関するマーケティングの粗さである。その代表例を紹介しよう。
昨年大手コンビニが仕掛けて大惨敗した「北陸三県日本酒キャンペーン」である。北陸地区で郊外型ディスカウントストアを経営する知人が解説する。
「東京に本部をもつ大手コンビニチェーンが富山県は「若鶴」、石川県は「福正宗」、福井県「一本義」という各県の銘柄を揃えて、各店舗に日本酒コーナーを設けたのですが、始める前から失敗するのはわかっていました。というのは、富山の人間はよほどのことがないかぎり、石川県や福井県の地酒を買うことがないからです。いえ、絶対にないと言っていいくらいです」
つまり日本酒に限れば、北陸三県という括り方がまったくピント外れだったのである。
「富山では福井の「一本義」が売れるわけがない。ところが、キャンペーンではこの品揃えがベストだと称して並べて売ろうとしたわけです。これは各々の地元の人たちにすれば、本当におかしいというか、ずれているというか、滑稽でさえありましたね。おそらくコンビニ本部の主導で企画され、北陸三県の各店は疑問を抱きながらも力関係から従わざるをえなかったのでしょう」
大手コンビニが行っている地域を切り口としたマーケティングの現実がすべてこうだとは思わないが、これに近いお粗末な例は枚挙にいとまがないと前出のディスカウントストア経営者は語っていた。大手総合スーパーの不振を尻目に、地方の食品スーパーの健闘が目立っているが、コンビニ業界にも地方の下剋上が見られる。次回はわたしが見つけた究極のコンビニについてお伝えするつもりだ。
ノンフィクション作家 加藤鉱

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