大手ゼネコン、受注堅調も「2ケタ減益」続出の衝撃 大型・小型工事の受注競争に見え始めた異変

「状況は厳しい。昔のように全員が安値でたたき合っているわけではないが、少し前の東京五輪関連の繁忙期から一転して、一部で競争が厳しくなっている」。5月14日、オンラインで行われた決算説明会の席上、大成建設の桜井滋之副社長はこう語った。

 株式上場するスーパーゼネコン4社の今2022年3月期の業績見通しが出そろった。そろいもそろって、増収ながら2ケタの営業減益を見込む厳しい内容だ。前2021年3月期から2期連続で減益となることも4社共通している。

 今期について、鹿島は売上高2兆0100億円(前期比5.4%増)、営業利益1040億円(同18.3%減)、大林組は売上高1兆9100億円(同8.1%増)、営業利益950億円(同22.9%減)、大成建設は売上高1兆6400億円(同10.8%増)、営業利益900億円(同31.0%減)、清水建設は売上高1兆5500億円(同6.4%増)、営業利益765億円(同23.6%減)を計画する。

6~7年ぶりの営業益1000億円割れ

 鹿島を除く3社は営業利益が1000億円を割り込む。これは都心の再開発案件や東京五輪関連工事がピークを迎える前の、2015年3月期から2016年3月期決算以来の低い水準だ。低調な決算見通しを受けて株価が下落した会社もあり、とくに大林組の株価は決算を発表した12日の終値が973円と始値から5%近くも下落した。

 建設市場は需要がないわけではない。清水建設の今期受注計画1兆3900億円(前期比15.7%増、単体ベース)を筆頭に、各社はコロナ禍で受注に苦戦した前期からの復調を描く。

 土木工事は道路や橋梁など国土強靱化関連、防災・減災関連の案件が豊富にある。建築はホテルや商業施設などの工事が少ないものの、大都市圏の再開発案件は底堅くあり、物流センターやデータセンター、そして生産の国内回帰に伴う工場案件も出てきている。これらの受注工事が進捗していくことで、各社の売り上げも堅調に積み上がる見通しだ。では、なぜ大幅な減益になるのか。

 期初計画のため、各社とも慎重な見通しを出している側面はある。ただ、根本的な理由は建築工事の受注競争が激化し、工事採算が低下していることに他ならない。

 大成建設は建築事業(連結ベース)の売上高総利益率が前期の12.6%から今期は8.6%と4ポイントも悪化、大林組も前期は11.2%だった建築事業(単体ベース)の売上高総利益率が今期は8.9%に悪化を見込む。

 受注を取り巻く事情をつぶさに見ていくと、工事高100億円以上の大型工事と、100億円未満の中・小型工事では環境が少し違うことがわかる。

大型工事は「スーパー同士のたたき合い」

 まず大型工事は、スーパーゼネコンの間で激しい受注合戦になっている。「大規模な案件は同規模企業同士の争い。スーパーゼネコン同士のたたき合い」(大成建設の桜井副社長)。

 規模の大きい再開発案件はこの先も東京・新宿や品川などで残っているものの、「工事量は数年前に比べて減ってしまっている。限られたパイの中での受注競争となるため、値段の競争になる。かなり安いので(採算確保は)話にならない」(大手ゼネコンの首脳)。別の大手ゼネコンの幹部は「当社では大型案件でも粗利益率7%を確保したいが、5%を切る水準で受注する企業も出てきている」と明かす。

 大林組のIR担当者も「再開発などの大型工事は一般的な工事に比べて採算が低い。しかも、いま手元にある再開発関連の工事が終わるのは2023年3月期とか、さらにその先のものがほとんど。工事が進捗すると原価低減も進むため利益率が向上していくが、当面はあまり利益寄与が大きくない」と説明する。

 スーパーゼネコンの取り合いになっている大型工事に対し、中・小型工事はスーパーから大手、中堅ゼネコンが入り乱れた争奪戦となっている。

 大型工事の収益寄与が低いとなると、スーパーゼネコンは期中に受注して期中に収益計上できる手頃な案件が欲しくなる。そこで前2021年3月期あたりから、スーパーゼネコンが小型工事にまで群がる状況が散見されるようになった。業界関係者からは次のような嘆き節が聞こえてくる。

 「これまで見向きもしなかった20~30億円ぐらいの規模の民間案件に、スーパーゼネコンの営業員が顔を出す(営業のアプローチをする)ようになった」(中堅ゼネコンのIR担当者)。「当社が手がけるような3億円ぐらいの小型工事の入札にも、スーパーゼネコンがエントリーしている。応札業者の数が増えているのは確か」(別の中堅ゼネコン幹部)。

 中・小型案件まで受注競争が厳しくなれば、当然その工事の採算も下がる。例えば、巣ごもり需要などを背景に新設が相次いでいる物流センターは、「スーパーゼネコンが(入札に)入ることもあるが、中堅ゼネコンが安い金額で突っ込んでくるケースもある」(大手ゼネコンの広報担当者)という。前出の中堅ゼネコン幹部は「物流施設は実際、利益率が低い。当社ではオフィスビルが7~8%の利益率で、物流施設はそれよりも4%ほど低い」と話す。

採算低下を引き起こす構造的課題

 こうした工事採算低下の真因は、受注環境の変化だけでなく、建設業界が抱える構造問題にあると言ってよい。

 国内の建設業界は、4~5重もの多重下請け構造の中に46万社がひしめく。ゼネコンを頂点に多数の中小・零細事業者が下請けを担う構図だが、スケールメリットを生かせず業務によってはアナログな作業も残るなど、経営面での非効率性が指摘される部分は多い。

 海外で浸透している、工事原価などを明示する透明性の高い入札形式が導入されている案件はごく一部。受注環境がひとたび厳しくなると、ゼネコンが下請けに無理な工事代金の値下げを要請するなどして、一気に受注価格のたたき合いへと陥りやすい。

 少子高齢化が進む日本では、今後建築需要が大きく膨らむことは想定しにくい。たとえコロナ禍が終息しても、東京五輪などの特需で我が世の春を謳歌した数年前の環境に戻ることはもはやないだろう。バブル崩壊後やリーマンショック後、建設投資がしぼむ中で赤字覚悟の受注に走ったゼネコン各社。「いつか来た道」に戻らないためにも、建設業界は大型再編を含めた変革を迫られている。

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