大虐殺から20年 「奇跡」と呼ばれるルワンダの発展

「あれは7歳のときでした。母から絶対に外へ出ないように言われ、家の中で息を潜めていたのを覚えています。暮らしていた首都キガリを出て、難民キャンプへも行きました……」駐日ルワンダ共和国大使館に勤めるサムエル・ビゲンベ・イマニシムエさんは当時をそう追憶する。
 2014年は世界を震撼させた「ルワンダ大虐殺」から20年という節目の年である。1994年、ジュベナール・ハビャリマナ大統領の暗殺をきっかけとして、フツ族過激派がナタやクワを凶器に、ツチ族とフツ族の穏健派を虐殺した。約100日の間に100万人が犠牲になった。
躍進の立役者はマイノリティ出身
 悲劇のイメージが拭えないルワンダだが、実はこの10年の間、毎年8%前後の高い経済成長率を誇っている。アフリカにおける経済成長国は、資源国と同義であるケースが多いが、同国に鉱物資源はほとんどない。内陸国というハンデも抱えながらの成長は「アフリカの奇跡」と評される。
 アジア経済研究所の平野克己上席主任調査研究員は「ルワンダの成長はポール・カガメ現大統領(56)の強烈なリーダーシップなくして語れません」と話す。カガメ大統領は虐殺されたツチ族の出身で2000年に大統領に就任した。IT立国化を掲げ、国中に光ファイバーを敷設。教育にも力を注いだ。インフラ整備、公社の民営化、女性の活用も推し進め、主要産業である農業の近代化にも成功した。
 「良い計画は誰でも立てられますがそれを実行に移すことは難しい。ルワンダでは大臣、知事クラスにも成果主義を導入しており、結果が残せなければ次々に入れ替わっていきます」。チャールズ・ムリガンデ駐日ルワンダ大使が教えてくれた。毎年、日本の県に相当する郡の成績が点数化されて公表される。その成績が知事のその後を決めるという。
 アフリカで蔓延(まんえん)していると言われる汚職行為も厳しく取り締まった。こうした努力は着実に結果となって表れ、13年10月に世界銀行が発表した「ビジネス環境の整った国」ランキングでは、アフリカ地域1位のモーリシャス(12年経済成長率3.3%)に続き、2位となった。
 一度国を離れたものの、政情や経済が安定したことから、ルワンダへ戻ってきた「ディアスポラ」と呼ばれる人々の存在も大きい。国際協力機構(JICA)の小林広幸ルワンダ事務所長が「大臣、担当大臣の約半数はディアスポラです。ルワンダで今最も注目されている企業の1つであるブルボンコーヒーのアーサー・カルレトワ社長をはじめ、経営者の多くもディアスポラです」と教えてくれた。
 ITレベルの高さに着目し、11年から現地の提携企業とオフショア事業を行っているレックスバートの田中秀和社長は「当初はうまくいけば儲けもの、というつもりでルワンダに発注しましたが、勤勉で人材のレベルが予想以上に高く、今となってはルワンダなしで当社の経営は考えられません」と話す。
 スターバックスも熱い視線を注ぐ。元々ルワンダは肥沃な土地をもち、コーヒー豆の栽培に適した土地であったが、農業近代化が進んだことからコーヒー豆の品質が向上した。「11年にはスターバックスのプレミアムラインナップにルワンダのコーヒー豆が選ばれ、通常の約2倍の値で販売されました」とスターバックスコーヒージャパンで「コーヒースペシャリスト」の肩書きをもつ田原象二郎さんが教えてくれた。
 「治安が良く、マウンテンゴリラを確実に見ることができるため、旅行先としても人気上昇中です」(ルワンダ駐在経験のあるJICA瀧本康平さん)というルワンダ。隣国・コンゴ民主共和国の武装勢力「M23」(13年11月に戦闘停止宣言)との繋がりを疑われるなど、一部で火種を抱えつつも、経済成長により悲劇のイメージから脱皮しつつある。

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