大阪で“激安おしゃれ雑貨戦争”!? 北欧タイガーに対抗する「ASOKO」の実力は?

100円ショップの激戦区、大阪・心斎橋にニューフェイスが誕生した。アパレル企業の遊心クリエイションが新たに手掛ける激安雑貨店「ASOKO(アソコ)」だ。
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 セレクトショップやインテリア雑貨店などか軒を連ねる南堀江のオレンジストリートに2013年3月2日にオープン。2日間で3000人強が来店し、予想を上回る売り上げを達成した。“おしゃれな激安雑貨店”として早くも話題を集めている。
 1号店はオレンジストリートに面した前衛ビルの1階で、店舗面積は約330平米。「サプライズをたのしもう」をコンセプトに、文具、キッチン用品、インテリア雑貨から玩具、ゲーム、アウトドアグッズまで幅広くそろう。価格は100~500円が中心。100円ショップでは扱っていないおしゃれなデザインや機能を備えた雑貨が多い。
 その理由について、遊心クリエイションの森島純嗣社長は「商品に価格以上の価値を感じてもらいたいから」と話す。モノや情報があふれる今、モノに費やす金額は減っている。そこで同店では少ない予算の中で悦びや満足感を得られるモノという基準でセレクト。「ちょっと気の利いたモノで、普段の生活にちょっとした感動」を提供する。
 大阪・心斎橋界隈では2012年7月、アメリカ村にデンマーク発の激安雑貨店「タイガー・コペンハーゲン」(以下、タイガー)が日本1号店を開業。来店客が殺到し、品不足で一時休業に追い込まれたが、その勢いはいまも衰えていない(詳しくはこちらの記事を参照)。さらに、心斎橋筋北商店街には、ダイソーが最新デザインの大型店を出店。若い女性客や外国人観光客にも好評だ。ほかにも「スリーコインズ」「セリア」「ミカヅキモモコ」など女性に人気の低価格雑貨店がしのぎを削っている。
 一方、遊心クリエイションは2001年、アパレル企業として創業。5年前にスタートした低価格のSPAブランド「YEVS(イーヴス)」を主軸に事業を拡大してきた。2013年2月期の売り上げは前年比37%増の52億円となり、過去最高を更新。新業態のASOKOは今夏より本格展開し、3年後100店舗体制をめざす。海外進出も視野に入れ、オリジナル商品の開発にも着手するという。
 ただ雑貨業界で後発のアパレル企業が、全く勝手が違う業態でなぜ事業拡大を狙えるのか。その可能性を探った。
カスタム対応アイテムでライフスタイルも提案
 同店の最大の特徴は、デザイン性の高い雑貨を市場価格の半額以下で販売していること。例えば、大手インテリア雑貨店で1000円近くするアロマキャンドルが200円から、キッチンで使うカラフルな便利グッズも100円からそろう。おしゃれ雑貨に対する固定観念を根底から崩してしまう価格設定が一番の強みといえる。
 ただ商品はすべて中国などの海外メーカーからの買い付け品で、自社企画商品ではない。破格の価格設定は高い原価率だからこそ可能となるのだ。同社はアパレルブランド「イーヴス」でもいいモノを低価格で提供するために利幅を抑えている。同じ考え方を雑貨業態にも持ち込み、バーゲンをせずに不動の安さを追求する。
 「日常使いのアイテムでも少しのデザイン性と遊び感覚が加わることで生まれるドキドキ感を大切にしていきたい。そのうえで安さが大きなポイントになる」と森島社長。
 現在は1店舗しかないため新商品の入荷は約1カ月後だが、店舗の拡大とともにオリジナル商品の開発が進めば、さらに面白い品ぞろえになりそう。
 もうひとつの特徴はカスタムアイテムの展開だ。オープン時は、顧客の好みや用途に応じて自由にカラーと形を組み合わせられるパネル式シェルフや、パーツごとに6色の中からカラーを選べるピスト自転車を販売する。
 今秋にはアート感覚のギフトセットもスタートする計画。価格に応じて商品をセレクトし、デコレーションラッピングすることで多様なギフトニーズに応えていく。
工具、iPhoneグッズなど、男性目線のセレクトが新鮮
 商品のラインナップを見てまず感じたのが、男性目線で仕入れた商品が充実していること。例えば、ドライバーセットやペンチなどの工具類やカギ類、小型ズームレンズなどのiPhoneグッズ、スタイリッシュな黒のステーショナリーなど、明らかに男性を意識したデザインやアイテムがズラリと並ぶ。そうした商品をあえて店頭に配置し、男性客が入りやすいように配慮している。
 おしゃれな低価格雑貨店の多くは女性客を意識した品ぞろえに重点を置いている。そんななかにあって、“男性目線のセレクト”は顧客にも新鮮に映り、大きな差異化ポイントになりそうだ。
「男性目線の商品は全体の半分くらいを占める。男性はとりたてて意味のないモノや置くだけでもさまになる文具などが好き。カップルやファミリーで来店しても、一緒に見て遊んで楽しんでもらえるモノが多い」(森島社長)
 ただ使い方がわかりにくい商品も多く、ちょっとした説明が必要だ。タイガーには直感でカワイイと感じる商品が多く、デザインの分かりやすさが女性の心をつかんだ。それに対し、ASOKOの店内で聞こえてくるのは「カワイイ!」と同時に「コレ、何?」という声。商品の分かりにくさは男性客や若い女性客には受けても、大人の女性客にはマイナス要因になる可能性が高い。
 また、キッチングッズや工具類などはいち押しアイテムにもかかわらず、商品バリエーションが少ないのも気になるところ。全体で約1000アイテムを展開するが、売り場面積のわりにカテゴリーを広げ過ぎた感も否めない。品ぞろえのバランスは客層に大きく影響するので、将来的には立地に合わせたメリハリのある品ぞろえが求められるだろう。
モノありきの視点から生まれたギャラリーのようなディスプレイ
 白を基調としたシンプルでクリーンな店内には、効率運営と快適な店舗空間を両立させる工夫が凝らされている。従来の低価格雑貨店とは一線を画す空間演出が印象的だ。
 ひとつはギャラリー風の店舗レイアウトとディスプレイ。真っ白な平台の上には展示商品が16点、間隔を空けて陳列されている。手前にあるのは小さな黒のプライスシールだけ。テーブルの下には各商品のストック用ボックスがあり、顧客はここから取り出してレジに持っていく。
「小売りはプロダクトありきのビジネスなので、商品一つひとつの存在感を最大限に魅せる陳列にした。100均の大量陳列と違い、顧客にストレスを感じさせない陳列でもある。これは展示品とストックを別にしているイケアのスタイルを参考にした」(森島社長)
 ふたつめはコストを抑えた売り場づくりだ。テーブル什器の下のストックボックスは、商品としても販売しているパネルシェルフを使用。壁面にはレールの入った白のパネルを設置し、パネルシェルフを可動式什器として活用している。さらに、天井には低コストの軽量ボードを配置し、店内奥の壁面を全面ミラーにして奥行きのある店舗を演出した。
 1号店オープンに合わせ、2階のイベントホールでは「ASOKO NO MONO展」と題した展覧会を開催している。クリエイティブ面のパートナーであるアートディレクターのシマダタモツ氏ら22人のクリエーターが「モノをアートで魅せる作品」を発表。100円の雑貨が持つ遊び心をアートにしたユニークな試みにも注目したい。
来店客の評判は?
 最後に、オープン初日に駆けつけた来店客に感想を聞いた。
 男性・女性問わず、総じて評判は上々だ。「おしゃれなモノやかわいいモノが安く買えるのがいい」「100均よりクオリティが高く、内容が充実している」「ありそうでない、ユニークなモノが多い」「商品を陳列しているテーブルの下に在庫があるのが新鮮」など安さはもとより、商品のデザイン性や独創性、見やすい売り場づくりに対する評価が高い。
 タイガーとの違いは、男性客の支持率が高かったこと。好きなアイドルへのプレゼントを買いに来たという会社員男性は「タイガーよりもギフトになるモノが多かった」と話す。いままではダイソーでよく買っていたという男性も「安いだけでなくデザインと機能もいい。男がハマるような道具類がそろっているので早速購入した」という。100均マニアの女性客は「どちらも好き。タイガーは女の子受けするデザインだが、ASOKOは男性受けするモダンな欧州のイメージ」と分析してくれた。
 顧客の声から課題も見えてきた。「もっと広いほうがいい」「思ったより狭かった」など店舗面積に対する要望が多く、大型雑貨店での買い物に慣れている消費者のニーズが見て取れる。また「工具類などの種類を増やしてほしい」「目当てのモノがほとんど完売していた」という品ぞろえやオペレーションに対する不満も聞かれた。こうした要望にいかに応えていくかが、ブランドを軌道に乗せるための最初の関門といえそうだ。
 好調なスタートを切った同店には、商業施設のデベロッパーからも熱い視線が注がれている。雑貨の新業態は洋服よりも手ごろで買いやすく、集客装置としての役割が期待されているのだ。
 ASOKOの開業は「地盤沈下にあった街の活性化」という面でも期待がかかる。南堀江はもともと家具店街として発展したが、2000年ごろから若者に人気のファッションストリートに変貌。しかし、その後、心斎橋筋商店街などの繁華街やターミナルの商業施設に客を奪われ、次第に活気を失っていった。今では休日でも人通りがまばらだ。そんな町に出店した狙いは「ファッションと家具と雑貨の店が集積する魅力的な街に復活してほしいから。その一端を担えれば」と、森島社長は目を輝かす。
 ASOKOはタイガーに対抗できる勢力となるか。激安雑貨店の戦いがますます面白くなってきた。

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