生活保護受給率の高さなど多くの課題を抱える大阪市西成区を活性化させる「特区構想」の一環として、未利用の市有地を転用した畑で生活保護受給者が野菜作りに取り組む計画が、公募で8月に就任した臣永(とみなが)正広区長の発案で進行している。近隣の市立天王寺動物園(天王寺区)がゾウの糞(ふん)から作った堆肥を提供。生活保護受給者の生きがいづくりや空き地の有効活用、収穫物の給食利用など一石何鳥もの効果を狙う。将来は農園化して牛やヤギなどを飼い、大阪の街中で「日本の原風景」を復活させる構想も描いている。
◆空き地に着目
民間出身で町長経験もある臣永区長の発案は、フリーライター時代、同動物園のゾウの糞から作った堆肥が人気で、週末に市民が行列を作るという話題を取材したのがきっかけだった。
区長就任後、西成特区構想の具体策を模索する中で、区内に広がる空き地に着目。「栄養分豊富なゾウの糞の堆肥で空き地を土壌改良し、生活保護受給者の生きがいづくりに役立てられないか」と思いついた。区の支援要請に動物園側も快諾し、堆肥の無償提供を申し出た。
◆橋下市長も興味
臣永区長は、西成特区構想有識者座談会のメンバーで「釜ケ崎のまち再生フォーラム」事務局長のありむら潜(せん)さん(61)に相談を持ちかけた。ありむらさんは以前、生活保護受給者による野菜作りに取り組んだが、菜園が遠くて頓挫した経験があった。
ありむらさんは「わずかな投資で大きな効果が期待できる。畑が近ければ参加者も増えて長続きもする」と賛同。9月の有識者座談会で、菜園作りプロジェクトを提案した。
報告を受けた橋下徹市長は「空き地やゾウの糞など身近なものをいろいろ活用していて面白い」と興味を示したという。
◆「DASH村」に
来年度から、西成区のあいりん地区にある萩之茶屋南公園(通称・三角公園)南側に広がる南海電鉄の線路跡地(約500平方メートル)を使って試行し、少しずつ畑を広げていく予定。初年度は特区構想の予算から数十万円を充てる方針だ。
業務委託する地元NPOが人選した生活保護受給者20~30人が野菜作りに取り組み、幼稚園児らをイモ掘りに招いて交流を深めるほか、収穫野菜を区内の小学校などの給食に提供することも検討中だ。
当初は無給だが、いずれは同区発祥のなにわ伝統野菜「勝間南瓜(こつまなんきん)」やハーブ、薬草など換金性の高い作物を生産して雇用創出につなげられたらと夢は広がる。
読売テレビ系のバラエティー番組『ザ!鉄腕!DASH!!』で、人気タレントのTOKIOが農作物の栽培などを通じて古き良き山村を再現する企画「DASH村」のように、区内に1500平方メートル以上ある空き地を農園化。将来は、牛やヤギ、ニワトリなどを飼って日本の原風景づくりに取り組む「西成版DASH村」構想も温めている。
臣永区長は「心豊かな環境づくりに励むことで若者世代を呼び込み、子供の歓声がこだまする元気な街に復活させたい」と意気込んでいる。