大阪駅の「性的広告」で再び燃え上がる論争の行方について

先般、立憲民主党の前衆議院議員・尾辻かな子さんが、JR大阪駅の御堂筋口で「エッチな萌え絵広告」が大々的に展開されていたことに対して、Twitter上で苦言を呈しておられました。

【写真】話題になった大阪駅の「性的広告」

議論が繰り返される、広告における性的表現の問題

 この手の論争は、とりわけ公共的な場所で「エロい絵を掲げるな」という論調のもと、寄せては返す波のように毎度問題視され議論になる性質のものであります。2019年には弁護士の太田啓子さんが、献血を設営する日本赤十字社による「宇崎ちゃんは遊びたい!」との献血コラボキャンペーンを問題視し、胸が大きい萌えキャラが公共の場で起用されるのは環境型セクハラだと認定しておおいに揉めました。

 同様に、Colaboの仁藤夢乃さんが温泉地とのタイアップで置かれている「温泉むすめ」の等身大パネルに嫌悪感を示して、こちらも盛大な議論の応酬となりました。先日は、性的表現を強調していると批判されたフリー素材モデルの茜さやさんへの文春オンラインのインタビューが大変な話題となりました。

 性的表現が広告など一般に広める媒体において目に入ってしまう問題は、本当に繰り返されるなあという印象です。

「胸強調広告」「性を売り物にしている」と批判され…ネットでよく見る“フリー素材モデル”が明かした誹謗中傷のトラウマ
https://bunshun.jp/articles/-/58638


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広告

子どもも触れる「ゲーム系エロ画像広告」

 実際、私も4人の子どもを儲け育てていますが、子どもたちがタブレットやPCを使いこなして広大なインターネットの住人になっていくプロセスにおいて、いわゆる「ゲーム系エロ画像広告」に遭遇するという洗礼を受けます。親としても、まだ多感な時期にそういうものに触れるのが良いことなのかと逡巡します。

 私もガキのころ、テレビで人気のあった「8時だョ!全員集合」や「オレたちひょうきん族」が子どもに有害だとPTAから文句をつけられ、おおいに論争になったのを思い出します。いつの時代も、親世代は子どもを想うあまり余計なことをするものであり、また、昨今は女性への抑圧に繋がるものは議論になりやすいのもまた事実です。評価され、売れる面白いものや過激なものと、世間一般に放流して相応しいものとの相容れなさには割り切れないものを感じます。

 というのも、私の仕事の一部がゲーム制作や投資であり、この界隈の理屈として広告で一番映える絵を使って何が悪いという気持ちになる反面、好奇心旺盛で年端のいかない我が子たちから素直な心で「パパ、これ何」などと質問されると、返答に窮する父親としての気持ちが心の中の黒潮と親潮となってぶつかりプランクトンが発生して漁場ができてしまうことになります。

 また、今回話のきっかけとなった尾辻かな子さんもまた、いろんな問題議員が跋扈する政治家の世界において、ちゃんと話をすれば割と理解してくれる人物です。表現の自由とは何かという観点からすれば全否定したくなる議論もされていますが、それもまたひとつの意見であり、同意しがたい内容であったとしても一度は受け止め、理解をして反応をしなければなりません。その点で、今回のきっかけとなったツイートを受けて、これらの萌えコンテンツが好きな方々が殺害予告めいた話まで尾辻さんにしてしまっているのは、不幸な衝突とも感じます。お前ら落ち着け。

広告は95%の人たちに無意味、無用

 それもこれも、駅のような公共の場所でこのような広告を掲載するのは適切かというお気持ちの問題にならざるを得ず、他方で、多くの人たちの目に触れてナンボの広告においてその表現が適切なのかというレギュレーションの問題は尽きません。

 というのも、今回の『雀魂』も『咲 -Saki-』も、そういうものが好きな人たちから支持されるコンテンツではあるものの、あのストレートな萌えとエロの微妙なギリギリのバランスを保っている部分は、興味のない層からすれば「ギリギリどころかアウトやがな」というラインであり、議論になるのも当然です。

 広告である限り、ほとんどの大阪駅を通る人たちからすれば、この広告は「お前は対象じゃない(Not For You)」です。多く見積もっても5%ぐらいしか興味を持たない広告は、95%の人たちからすれば無関心か、批判的な態度でとらえられることもまた多くあります。これは、逆の立場としてジャニーズ系や韓国系のアイドルが広告に掲載されても、刺さらない人からすれば意味のない広告としか感じ取れません。

 そして、広告という観点からは、興味のないNot For Youの対象からすればただのスパムであり、受け取り次第ゴミ箱直行となります。それでもスパムが横行するのは、刺さる数%の人に買ってもらうために大多数の興味のない人の目にも触れる必要があるからです。ウェブサービスでは特に、大きく広告を打って収益を確保するためには、広告を広く読者や利用者に見せなければならず、スマホでもPCでもウザくないレベルでいかに関心を持ってくれるわずか数%の見込み客に見せるかが生命線となってくるのです。

問題表現の方が宣伝につながるというパラドックス

 広告系の有識者は、必ずこう言います。「ウザくない、問題ない表現の広告にします」と。

 でもですな。見られてナンボ、話題となって初めて価値のある広告の分野からすると、過激な広告を見て騒いでくれればくれるほど、大阪駅とはゆかりのない、本来ならば広告のターゲットになっていない人たちにまで、この『雀魂×咲』のコラボ企画が届くようになるのです。

 献血で『宇崎ちゃんは遊びたい!』起用が揉めた際も、まったく無関係の私も「そういえば最近『宇崎ちゃん』読んでないな」と買い求めるなど、むしろ話題になってしまったり、久しぶりに献血行くかという行動を促したりします。つまり、問題表現だと皆さんがSNSなどネットで問題提起をして盛り上がるほど、本来届かなかった層にまで告知効果が出てしまうので、むしろこれらを挑発的に扱ったほうが宣伝としては成功してしまうというパラドックスが発生するのです。

炎上に耐性がついてきた

 なかばワンチャン狙いの業者にいいように利用されてしまうことも多いフェミニズムの問題はあるわけですが、広告会社も広告を出す事業者も媒体となる公共機関も、ネットでの炎上に対してかなり耐性がついてきたなあというのがあります。

 今回はJR西日本コミュニケーションズ社が矢面に立って、あくまで「ご心配をおかけして申し訳ない」としたうえで、表現については広告会社が内々で運用しているガイドラインに基づいて修正を重ねてきていたので「問題ない」と一蹴する形となっています。事実上の門前払いで、まあ当然そういう対応になりますね。

「性的だ」と批判の大阪駅広告、代理店「修正重ねており、問題ない」「尾辻氏に申し上げることはない」弁護士ドットコムニュース 
https://www.bengo4.com/c_18/n_15331/

好きではないものも消極的に容認するべき?

 要は、オンブズマンや弁護士がシンポジウムやるから関係者にヒヤリングさせろとか、抗議メールに対して釈明と撤回を求めるなどと言われても、かなりの場合、公式サイトでの塩対応はおろか、上記のような門前払いか完全に無視するようにすらなっています。相手にして燃料を与えても問題が引き延ばされて損害が出るだけで、誠実に対応したところで袋叩きにされるだけなので利益がないと世間的にかなり理解されるようになったということでしょう。

 また、ここで「ネットで炎上している」などと言っても、結局はほとんどがTwitter上での話であり、この「炎上」を報じるネットメディアもJ-CASTやねとらぼ方面のネット話題系の媒体か、ハフポストやAERA、東京新聞、日刊ゲンダイなどリベラル系媒体が定番であって、一部の熱心な読者以外は1週間もすれば忘れるので「無視して構わない」と学んだ人たちほど無視するようになってしまったわけです。

 他方で、いくら広告主も代理店も掲載媒体もネット炎上に慣れてビビらなくなったとはいえ、やり過ぎたらアカンということで、センシティブな広告についてはそれなりに対応の仕方をアップデートするようになりました。萌え絵であれジャニーズ系であれ韓流アイドルであれ、性の商品化の問題は、単にゾーニングで対応したり、ガイドラインを厳格運用したりしても、人の目につくところで低きに流れることは起き得ます。これはもう、そういう環境において何を貴び、尊重し、何を守るかですよ。

 親として子どもたちを守るためにアドブロックを入れたりすることは仕方ないとしたうえで、多様性を受け入れるというのはNot For Youへの寛容性を高めることだ、好きではないものも消極的に容認することだと思います。

 そして、これこそが、不愉快なものも受け入れる、という共存の姿勢であり、社会の分断から文化や価値観の多様性を守る一歩になるのだとも感じます。喜ばしくない表現も、誰かにとっては価値のあるものだからこそ目に触れるわけで、Not For Youのものを見て「けしからん」とか「不適切だ」と噴き上がる前に、一拍置いて冷静になることの大事さを、今回の問題は改めて教えてくれている気がします。

(山本 一郎)

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