夫婦二人世帯で5万円超!? どんどん値上げされる電気料金の今後は?

世界的な資源高、ウクライナ戦争の勃発、さらに進む円安によって燃料費が高騰した結果、電気料金が上がり続けている。政府は脱炭素に大きく舵を切るが、ベース電源である原発の再稼働は進んでいない。今後、電気料金はどこまで上がるのか?

◆夫婦二人世帯で5万円超!高い電気料金に悲鳴が続々

電気料金の高騰が止まらない。大手電力10社の5月の家庭向け電気料金は、各社が値上げし、過去5年間で最高水準となる。

東京電力では、平均モデル(標準世帯)で8505円と、前年同月比で1683円も上昇。電気・ガス料金の見直しサービスを提供するエネチェンジの試算では、12月には9537円まで上がるという。

沢井淳一さん(仮名・30代男性)は、先月届いた電気料金に目を丸くした。

「夫婦2人暮らしで5万3975円ですよ!? 12月は2万円強、1月は4万円と倍増したけど寒かったから仕方ないと思っていた。でも、さらに1万円以上も上がるなんて……。コロナ禍でリモートワークになり、ゲームプランナーという仕事柄、高性能のいいPCや複数のモニターを使うので、人より電気を使っている自覚はある。妻も在宅勤務なので、料金がかさんだのでしょう。会社から補助なんてないし、給料から電気料金を源泉徴収されている感覚です」

◆電気料金高騰の原因は?

電気料金の高騰の原因について、エネルギー政策に詳しい常葉大学名誉教授の山本隆三氏が説明する。

「昨年来の資源高に加え、ウクライナ戦争の影響で、日本が輸入する石油や天然ガスの価格は1年前のほぼ2倍に高騰。さらに、円安がこれに拍車をかけ、電気料金が上がった。

ただ、大手電力会社には、燃料価格の上昇による料金値上げに上限を設ける『燃料費調整制度』があり、消費者はさらなる燃料費上昇による電気料金の値上げは避けられる。一見いいことに思えるが、燃料費の上昇分を電力会社が負担しているにすぎず、耐えられなくなれば電気料金は値上げされます。それだけでなく、供給が不安定になる恐れもある」

◆「停電危機」の背景

実際、関西電力や中国電力、北陸電力はすでに「上限」に達した。供給不安で思い起こすのは、3月22日に政府が初めて電力需給逼迫警報を出した首都圏の停電危機だ。

環境ジャーナリストの石井孝明氏は、その背景をこう読み解く。

「背景は3つあります。1つ目に、近年の脱炭素の流れの中で、火力発電が縮小されたこと。東電は’19年までに200万kwほどの発電能力を持つ石油火力発電所を閉鎖した。その後、’20年に菅義偉政権が’50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言。火力発電縮小を政策が加速させた格好です。

2つめは、再生可能エネルギー(再エネ)の過剰な優遇。原発事故翌年から始まった再エネ振興策によって、東電管内の太陽光発電設備は1000万kwまで増えたが、3月22日にはほとんど役に立たなかった。

そして、3つ目が原発再稼働の遅れです。原発事故以降、営業運転を再開した原発は全33基中、10基にとどまる。これら供給不安の要因は、そのまま料金高騰の要因にもなっているのです」

◆「夏はどう節約すればいいのか……」

「安さ」がウリのはずの新電力も、料金が大幅に上がっている。高原恭介さん(仮名・30代男性)も、料金の高騰に悲鳴を上げた一人だ。

「昨年、私の在宅勤務が増えた上、コロナ禍で妻のパートのシフトが減り、夫婦が四六時中、家にいるようになり、電気料金が1万円を超えてしまった。これはまずいと、新電力に乗り換えると料金は5000円ほどに抑えられ、安心したのも束の間、昨年12月の電気料金が突然、3万円超に!? 慌てて東電に戻したけど、それでも1万円超。寒い日は部屋の中でもダウンを着るなどして、極力エアコンを使わなかったけれど、夏はどう節約すればいいのか……」

◆新電力も料金高騰!事業撤退する会社も

新電力と契約する事業者には、電気料金が4倍にもなり、廃業を考える企業も少なくないという。一方、新電力会社の経営も悪化し、新規契約の停止や事業撤退も相次ぐ。

楽天でんきは燃料費高騰による電力調達価格の上昇に耐えられず、6月1日から燃料費調整額の「上限」を撤廃。新電力はさらに値上がりしそうな雲ゆきだ。

エネチェンジの曽我野達也取締役は、内情をこう説明する。

「そもそも、新電力会社はどこからいくらで電力を調達しているか開示しておらず、『再エネ100%』と謳っていても、夜間に調達した電力には原子力や火力発電も含まれる。

現在の料金高騰は、ベース電源の原発が稼働せず、燃料費が高騰する火力発電に頼っていることが主要因。原発再稼働は電力価格の安定に繋がり、新電力にとって決して悪いことではない」

◆値上げは今後も避けられそうにない

経産省は昨年、エネルギー基本計画で’30年度の電源構成について「再エネ36~38%」とする素案を発表した。これを実現すれば、電気料金は安くなるのだろうか。

「日本の再エネは、太陽光発電が主力。経産省のエネルギーミックスを実現するには、太陽光発電の設備を現在の倍にする必要があるが、すでに設置用地は限られ、非常に難しい。仮に、倍にできたとしても、新たに送電線をひくコストもかかる。

また、再エネの電力は固定価格買取制度で買い取られるのでその分高く、さらに再エネ賦課金が電気料金に上乗せされる。再エネが増えれば、当然、電気料金は上がります」(前出・山本氏)

電気料金の値上げは、今後も避けられそうにない……。

◆太陽光発電が環境を破壊!全国で反対運動が相次ぐ

「自然に優しいはずの太陽光発電が、環境を破壊している。この辺りは湧き水と川の水が水道代わり。何か起きれば仕事はおろか、住むこともできなくなる」

山口県岩国市の「美和町の自然を守る会」の中村光信会長は、こう嘆いた。

ゴルフ場の開発が予定されていた110haもの広大な土地に、メガソーラー建設の話が降って湧いたのは’19年のこと。建設用地は県内最大の河川・錦川の上流に位置するが、工事が開始されるとヒ素や鉛などの有害物質を含む土砂が水田に流れ込んだ。2年もの間、耕作を泣く泣く諦めた中村氏をはじめ、地元から建設反対の声が上っているのだ。

同様の事態は全国で頻発しており、’14~’21年のあいだにメガソーラー建設の規制条例を定めた自治体は175にも上る。前出の常葉大学名誉教授・山本隆三氏はこう指摘する。

「斜面や崖は日照がよく、土地代も安価で済む。再エネ振興策の固定価格買取制度で太陽光発電の電力は、全国一律の料金で買い上げてもらえる。だから、事業者は土地が安いところに設備を造りたい。だが、傾斜地では、昨年、熱海の伊豆山で土石流が発生したように、土砂崩れなど災害の危険が増す。地元が反対するのは当然です」

◆中国企業による買収も不安視

ソーラー事業会社が中国企業に買収されたことを、岩国市議会議員の石本崇氏は問題視する。

「顔が見えない中国系企業は連絡もままならず、法人登記もコロコロ変わり、地元は不安を募らせている。岩国には在日米軍や自衛隊の基地があり、安全保障上のリスクになりかねない。もはや地域の問題ではなく、日本全体の問題になっている」

建設中の太陽光発電でさえ、すでに問題が噴出している。稼働したらどうなるのだろうか。

【常葉大学名誉教授・山本隆三氏】

国際環境経済研究所所長。住友商事で石炭部副部長、地球環境部長などを歴任。プール学院大学国際文化学部教授を経て現職。環境エネルギー政策に精通する

【環境ジャーナリスト・石井孝明氏】

時事通信社記者などを経て、フリーランスとしてエネルギー・環境問題を精力的に取材・執筆。著書に『京都議定書は実現できるのか』(平凡社)など

【岩国市議会議員・石本 崇氏】

’65年生まれ。日本体育大学卒。市議5期。メガソーラー問題に取り組む「錦川の環境を守る議員団」のほか、拉致問題や安全保障の分野で精力的に活動する

<取材・文/齊藤武宏 山本和幸 写真/PIXTA>

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