11月9日には日経平均株価が25年ぶりに2万3,000円を超え、景気回復期間も「いざなぎ景気」を超えたと報道されていますが、日銀が目標とする2%の物価上昇は未だ達成されず、何より日々の生活で「好景気」を実感することはありません。なぜこのような事態となっているのでしょうか。メルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、国内外の様々な要素を鑑みつつその分析を試みながら、日銀の金融政策の誤りや今すぐ手を打たねばならないこと等を記しています。
日銀ETF買いでバブル助長
日経平均株価は、2万3,000円にもなるが、まだ日銀は少しの下落時でもETF買いを中止しない。このバブル助長は、今後大きな禍根を残すことになる。それを見よう。
トランプ大統領のアジア歴訪
トランプ氏は日本で歓待されたが、中国では米国の要求を撥ねつけられたのに、中国を非難しないで歴代の米大統領が貿易赤字を放置したことを非難している。中国が28兆円の製品を買ったことで、トランプ大統領はディールとして成功と我慢した。短期の取引しか見ないトランプ政権と中国習近平政権の長期戦略で見る交渉の違いを見せつけている。
しかも、28兆円の半分がLNGなどエネルギーで、中東サウジの混乱とみて、中国はサウジから米国のエネルギーに乗り換えるようである。
そして、米国は大企業のトップを連れてきて、中国でのビジネス交渉しているので、中国と決裂するわけがないし、米国企業の収益の半分以上を中国で稼いでいるので、中国と友好関係を失うこともできない。それを中国も知っているので、強気に出ている。
特に、この半年、中国の景気がよく、その景気の良さで世界の企業は儲けを増やしたことで、世界株式市場が好調に推移しているのである。
安倍首相の圧力一辺倒が世界の非常識であることは、すでにこのコラムで述べているが、中国から北朝鮮との対話を米国は迫られて、60日ルールなるものを持ち出し、北朝鮮との交渉を開始するようだ。中韓会談でも北朝鮮との戦争ではなく対話で合意した。安倍・トランプの圧力一辺倒は、世界の非常識であることが明確化してきている。
よって、ティラーソン国務長官の主張が米国の政策となる方向である。このように中国の意見が、米トランプ大統領の主張と違っても採用され始めている。米トランプ政権には筋の通った戦略や戦術がないことで、世界の主導権が徐々に中国になり始めてしまった。
このため、日本も中国と友好関係を結び、中国の主張との折り合いをつけることが必要になっている。このため、日中首脳会談も頻繁に開催する必要がある。
中国の景気動向で世界の株価はどうなるか?
中国の景気動向は、資金のバラマキによるミンスキー・モーメントが近くて、金融崩壊を避けるためにも資金を絞る方向になる。当然、今より景気は悪くなる。米国の株高は、米国の税制改正というが、企業業績の半分は中国に依存する部分であり、この中国での儲けがなくなると株価は落ちることが予想できる。
米国株価が落ちると、日本の日経平均株価も落ちることになる。
日銀の金融政策は間違い
金融政策は、特に量的緩和は、景気後退期に行うことで通貨量を増やして、通貨量を維持することで、物価下落を止めて景気の底上げを図ることである。
しかし、現時点、世界的な景気上昇時であり、金融政策は引き締めの方向にする必要がある時期なはずである。内閣府は、2012年12月に始まった景気回復局面が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなったと言っている。
自動車販売店に行くと、土日曜日は多くの客がいて、なかなか対応してくれない。有名な料理の店でも多くの客が列を作り、景気が良いことを実感する。
これ以上の景気拡大を起こす必要がないはずである。この景気上昇は、中国の景気が良いことで起こり、中国の景気は、今後落ちることが見えている。
現時点では、量的緩和を止めて、買ったETFを売り、次の景気後退に備えるべき時である。日銀は、手持ちETFを今売れば、膨大なもうけを得ることができる。それを国庫に回して、政府はその資金で国債を大量に償還した方がよい。こうして、次の景気後退期に備えるべきである。
もし、日銀がETF買いを続けると、株価は上昇していくが、それはバブルを助長していることになり、景気後退時には、その分株価が落ちることになる。バブル崩壊になると、景気後退の深さが大きくなる。よって、今の日銀ETF買いには、良いことはほとんどない。
物価上昇2%にならない理由
それなのに、物価はなかなか上がらない。これには理由がある。全人口に占める60歳以上の高齢者数が50%になり、年金生活者が拡大している。この年金が年々減額されているからである。
高齢者層でも所得が高い人の年金を減らしたり、所得税を上げて、しかし、年金の低い人の年金を下げないようにしないと、消費を下げざるを得ない人口が半分いることによる。
もう1つが、非正社員や中小企業社員が雇用数の半分になり、ここでも給与が増えないが、社会保障費が上がり手取り収入は増えていない。減っている場合もある。アルバイトの賃金は上がったが、非正規の契約社員より低い。
よって、消費は全体的には下がり、物価が上昇しないことになるし、物価が上がる理由の多くが原材料の高騰である。価格が上がると消費を下げることになる。この部分が大きいので、景気が良いと実感できない人が多いのである。
矛盾の解消は
このため、財政均衡のために年金や社会保障の削減より、労働人口を増やして、社会保障費を払う人を増やすしかない。このためには、選択的な労働者政策を早く始めて、日本で技術を覚えて、そのまま日本に長いこと住むことができるようにすることである。ワーキング・ビザや技術者ビザなどの発給数を上げて、税金を払う人を増やしていくしかない。
人手不足が、中小企業で大問題になっているが、その解決にはワーキング・ビザの範囲を拡大して、鉄工所、機械工などの技術職も対象とするべきである。そして、最長20年程度の滞在期間や永住権国籍などを職人でも取れる制度にすることが必要になっている。
今、人手不足で未熟者を検査に回すことになり、品質問題を起こしている側面がある。日本のものづくりもこのままでは維持できないレベルになっている。
もう1つが、技術者を中心に定年をなくすことである。管理者に高齢者を保持すると、人事の渋滞が起こるので、管理職は無理としても、技術職の人たちは、年功序列ではない給与にして、雇い続けることが必要になる。これで、年金が軽減されることになる。
急速な人口減少を抑えて、年金崩壊や社会保障崩壊を防ぐ必要になってきた。
ハイパー・インフレへ
自民党の量的緩和策では、景気後退期に円が暴落して、ハイパー・インフレを起こしてしまう。そうなると、一挙に年金や国債の問題は解決するが、高齢者の生活は崩壊して政治も同時に崩壊の危機になる。
自民党の政策は非常に危険であるが、それを安倍首相は理解できないようである。というより、国民も理解していないので、どうしようもない。何とかなると思っている。
ハイパー・インフレになったとき、その危機を国民が納得できるような方法で解決できるかになってきた。もう1つ、その解決は自民党ではなく、今の野党が行うことになるが、その準備ができてるのか不安である。