「街のケーキ屋さん」で倒産が急増、過去最多を更新する勢い
洋菓子店の倒産が目立っている。帝国データバンクの調べでは、いわゆる「街のケーキ屋さん」などの洋菓子店の倒産が2019年8月までに30件発生。2000年以降で最も多く発生した2018年の同時期(25件)を上回るハイペースで推移しており、通年で最多を更新する可能性も出てきた。
特に多い経営破たんは地元の有名店。「至高のモンブラン」など高い知名度の看板商品を有していたモンブラン(兵庫)、「ユカたん」や「レモンケーキ」などのヒット商品を抱えたニシムラフアミリー(北海道)など、地元で愛されてきた洋菓子店のケースが目立つ。国内では男女問わずスイーツ人気が定着し、追い風が吹いているように見える洋菓子店。それにも関わらず苦境に陥る背景には、「コンビニスイーツ」に代表される顧客の購買パターンやチャネルの変化などが要因となっているようだ。
洋菓子全体では支出額が伸びるものの、利幅の大きいケーキの支出額は減少傾向で推移している 洋菓子店の経営を取り巻く「三重苦」、有名店でも生き残りが難しい時代に
洋菓子店で倒産が多発する要因は、3つの共通点に整理できる。1つ目は消費志向の変化だ。例えば、「クリスマスケーキで1年分の利益を稼ぐ」とも言われるケーキへの支出。総務省家計調査によれば、2009年におけるケーキへの支出額を100とすると、2018年は91.1となり、10年間で8.9ポイントも下落した。節約志向で消費が伸び悩む中でも、洋菓子合計では101.6と堅調に推移しているのに比べ、ケーキへの支出減少は相対的に目立つ。
2つ目は客足の変化。富士経済によれば、2017年のスイーツ市場全体のうち、専門店などが占めるスイーツショップの市場規模は前年比1.1%減少したのに対し、量販店やコンビニなどが占めるホールセールの市場規模は0.7%増加した。特に、コンビニ各社は洋菓子店より安価で高品質なスイーツを揃え、「プチ贅沢」需要を狙った高価格帯商品も人気だ。また有名ブランドや人気パティシエとのコラボなど、マーケティングにも余念がない。その結果、専門店よりも安価で気軽に購入可能なコンビニなどの量販店に客足がシフト。客足に変化が起きたことで、拡大するスイーツ需要を取り込めていない点もネックだ。
3つ目は相次ぐコストアップ。帝国データバンクが発刊する「全国企業財務分析統計」では、2017年度における「菓子・パン小売」の原価率は49.3%、過去10年間で最も高かった。輸入小麦価格やバターといった、洋菓子作りには欠かせない主要原料価格の上昇に加え、近年は人手不足により人件費も上昇している。
洋菓子店を取り巻く「消費志向の変化・客足の変化・コストアップ」の3重苦。有名店であっても生き残り競争が決して容易でない、熾烈な経営環境を物語っている。
進化するコンビニスイーツに対し、街の洋菓子店はどう対抗するか。その戦略が問われる 「街の洋菓子店」として生き残るための変化問われる
こうした消費者の嗜好変化には大手も敏感だ。シャトレーゼは成長著しいアジアなど海外市場へ、不二家は従来の路面店からスーパー内への店舗出店を加速させるなど、集客力の高い立地に活路を求める。モロゾフはネット通販の独自ブランド「みみずく洋菓子店」を新設、ターゲット層囲い込みによる生き残りを模索している。
「街の洋菓子店」ではどうか。今後キーワードとなるのは、やはり洋菓子店ならではの強み、「専門性」となるだろう。SNSなどの普及により情報発信が容易となるなか、独自のプレミアム感やテーマ性、世界観といった新たな魅力を積極的に発信するなど「専門店ならでは」の小回りを生かした取り組みで、独自のファン・リピーターを獲得可能だからだ。量販店に奪われた客足を再び呼び込むことができるか、街の洋菓子店としての戦略が問われる。