イハツ工業が2011年9月20日に発売したリッター当たり30.0キロ(新基準のJC08モード)走る軽乗用車「ミライース」が人気だが、スズキもリッター30.2キロと、0.2キロ上回る軽乗用車「アルトエコ」を12月13日に発売すると発表した。
リッター30キロは、ハイブリッドカー(HV)並みの低燃費で、HV、電気自動車(EV)に次ぐ「第3のエコカー」として注目を集めている。ダイハツの先行で、ライバルのスズキが追随するのは時間の問題と思われたが、イース発売から約2カ月余の追随という異例の早さは、スズキの危機感の強さと技術力の高さを示している。
標準車に対して「30%以上の燃費向上を実現した」
スズキは「好評いただいているアルトの機能や装備はそのままに、スズキの低燃費化技術を結集し、省資源・低燃費を 徹底的に磨き上げて、ガソリン車トップとなる30.2キロを達成した」と、自信たっぷりにコメント。ダイハツへの対抗心 をうかがわせた。アルトエコは標準車に対して「30%以上の燃費向上を実現した」という。
国土交通省審査のデータで比較すると、アルトエコのJC08モードの燃費はリッター30.2キロで、イースの30.0キロを上回るが、従来の10・15モードでは両車とも32.0キロで並ぶ。JC08モードはエンジンが冷えた状態で始動して走り出すという、実用に近い走行でテストするため、エンジンが暖まった状態でスタートする10・15モードよりも数値が低下する。データを見る限り、両車の性能はほぼ互角といえ、実力はアルトエコの発売後、自動車専門誌などのテストで試されることになる。
スズキの燃費改善のメカニズムは基本的にダイハツと同様といえる。イースがブレーキング時に時速7キロになるとエンジンをストップさせるのに対して、アルトエコは時速9キロでストップさせるなど、アイドリング・ストップ機能を強化。理論上はイースよりさらにガソリンを節約する構造となっている。
さらにスズキはエンジンやサスペンションなどの見直しで標準モデルに比べ20キロの軽量化に成功。全高を15ミリ下げることで空気抵抗を減らすなど、ダイハツ同様に徹底的に既存の設計を見直し、低燃費を実現させた。
既存のアルトをベースに持てるだけの技術を駆使
ダイハツはイースに社運を賭け、ブルース・ウィリスをCMに起用するなど大々的に宣伝した結果、月販目標7000台に対して、発売開始から2週間(9月20日~10月3日)で約3.6倍の2万5000台を受注。ダイハツは「(女性の比率が高い軽にもかかわらず)男性比率が50% を上回り、年齢は幅広い層から支持を得ている。大変好調な立ち上がりとなった」と胸を張った。
それだけにスズキの危機感は強く、ダイハツを燃費で抜き返すのは至上命題だった。スズキは12月3日に一般公開される東京モーターショーで、「1リッター当たり32キロ以上」という次世代カー「REGINA(レジーナ)」を参考出品すると発表していたが、ショーモデルだけでなく、市販車の発売に踏み切ることになった。 ダイハツはミラをベースとしながらも、イースをボディから専用設計したが、スズキは既存のアルトをベースに持てるだけの技術を駆使して、言わば駆け込み的に30キロを実現したと指摘されても仕方あるまい。
裏を返せば、これまで「画期的」と思われたダイハツの低燃費技術も、ライバルが短期間に追いつけることが証明されたわけで、これではせっかくの低燃費技術もユーザーの目には陳腐化しかねない。果たして絶好調だったイースの売れ行きはどうなるのか。スズキがダイハツに対抗して、どんなCM戦略を打ち出すのかも含め、ライバル2社の今後の行方が注目される。