婚活女性の6割が”最低700万”という理由

未婚女性に聞くと、6割は「結婚相手の年収は700万円以上」と答えるという。なぜ女性は現実離れした高所得者を探すようになったのか。中央大学文学部の山田昌弘教授は「若い男性の経済格差が広がり、女性はその収入をより強く気にせざるを得なくなった」と分析する――。

※本稿は、山田昌弘『結婚不要社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■女性の約7割が「結婚相手の収入」を重視している

今日の日本で、いったいどういう人が結婚しているのでしょうか。

結婚できる男性――女性が結婚相手に選ぶ男性――は「経済データが重要である」と言えます。つまり、職業が安定していて収入が高い人であればあるほど結婚しやすく、職業が不安定で収入が低い人であればあるほど結婚しにくい。これはいくつかの統計分析が示していますし、若者が結婚相手に求める条件といったアンケート調査の回答でも、女性は、近年ますます経済的な安定というものを重視しています。

たとえば、朝日新聞が2018年12月に行ったネット調査「未婚の若者の結婚観」(25~34歳の男女、約1000人)では、「結婚相手に譲れぬ条件」として、72%の女性が「収入」を挙げています。これに対して「収入」を条件に挙げる男性は29%でした(図表1)。

「相手に求める年収」という質問には、女性の63%が「400万円以上」と答えています。そして「関係ない」と答えた女性は19%、男性は64%です。

こうした男女の意識の差――女性は6~7割の人が収入重視、男性は2割くらいの人が収入重視――は、じつは十数年前から変わっていません。

結婚相手に求める年収と雇用形態(朝日新聞2019年1月13日朝刊)(画像=『結婚不要社会』)

■「年収700万円以上」という現実離れしたハードル

女性月刊誌『JJ』(2019年2月号)の調査「JJ世代の結婚白書2019」はもっと率直です。結婚相手の男性の年収は700万円以上(1000万円以上含む)と答えた女性が60%近くいて、年収を気にしない女性は約8%にしか過ぎません。JJ読者には夢見る女性がまだ多いということなのでしょうが、それにしても700万円以上というのは、若い男性にとってはあまりにも現実離れした高いハードルでしょう。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/malerapaso)

もちろん、いままで女性が男性の経済データを重視しなかったわけではありません。そうではなくて、経済データを重視せざるを得ない状況ができてしまったということです。

30年前の被雇用者は、経済的に安定していました。ところがいまは、経済的に不安定な若い男性が増えているので、経済データを結婚相手の条件に挙げる女性が増えてきたわけです。

経済データほどではないにしろ、容姿と身長も男性が選別されるデータになっています。拙著『モテる構造―男と女の社会学』(ちくま新書/2016年)に詳しく書きましたが、それは、じつは子どものためなのです。娘だったらルックスがいいほうがいいし、息子だったら身長が高いほうがいいので、自分のためというよりもやがて生まれる子どものために、男性は経済データだけでなく、外見つまりは遺伝子のデータでも選別される傾向が強くなっています。

■女性は「出産・育児ができる年齢か」を見られる

一方、結婚する女性のほうはどうでしょうか。女性が選ばれるのは「年齢」が重要な基準となっています。外見で言えば、いわゆる蓼食う虫も好き好きなので、どこかには自分を好きになってくれる男性がいます。

何年か前、長寿番組の「新婚さんいらっしゃい!」(朝日放送テレビ)に見るからにふくよかな女性が出てきた回を見たことがあります。どこで知り合いましたかという質問に「ぽっちゃり婚活」と答えていました。男性は中肉中背でしたが、太めの女性が昔から好きで、この集まりに参加を申し込んだそうです。

女性の収入については、あまり気にされません。外見も身長も関係ありません。では、なぜ年齢か。端的に言って、「出産」「育児」です。多くの若い男性にとって、子どもを産んで育てられる年齢ということが女性が結婚相手として選ばれる大きな条件になります。

先に述べたように、男性は結婚の条件として相手の経済面はあまり重視していません。まあ、最近の男性は「女性の収入は高いほうがいい」、つまり共働きしてもらいたいという意見が多くなっていますが、最優先の条件ではありません。

■男性が婚活しても「結婚のチャンス」は増えない

そして、外見に対する男性の好みというのはかなり多様なので、女性にしてみれば自分を好んでくれる男性がどこかにいるわけです。もちろん、どこかにいるけれどもどこにいるかはわからない。それが、女性が婚活する理由でもある(いろんな男性と出会うチャンスが増えるわけですからね)。

女性のほうが婚活に積極的ですが、その理由も、婚活すればいつかは結婚困難が解消されるという手ごたえを感じるからでしょう。男性はそもそも経済や容姿のデータで選別されるので、婚活してもチャンスが増えることはなく、結婚が困難なことに変わりはありません。つまり、結婚できる・できないの格差は、特に男性のほうに残るわけです。これは、私の編著書で、村上あかね桃山学院大学准教授が詳しく分析しています(『「婚活」現象の社会学』)。

こうした状況については、男性の経済格差が広がったために、男性の経済格差を意識する女性というものが顕在化しているという言い方もできるでしょう。

男性の場合、いわゆる外見によって生じる結婚の格差は、昔からありました。ただし、昔の若い男性はほとんどが正社員でした。つまり、男性の経済格差が小さかったので、若い女性はその収入を気にせずに、外見のほうを気にする度合いが大きかったともいえるわけです。

■「愛があれば貧乏でもいい」恋愛至上主義の消滅

いまは若い男性の経済格差が広がってしまったので、女性はその収入をより強く気にせざるを得なくなっています。アンケートの回答にしろ婚活ブームにしろ、それが社会に表面化しているというのが現状です。

それにしても『結婚の社会学』を書いてから約20年の間に、こうした「本音」をオープンにしていいか・悪いかという判断基準が大きく変わったと思います。20年前は、自治体の報告書や新聞に本音を書こうとすると「待った」がかかりました。「お金なんて関係ない、結婚は愛ですべきだ」というようなイデオロギーが残っていたのです。

いいか悪いかはともかくとして、いまはそうしたイデオロギーに反する現実でも発表できるようになりました。社会的にも語られるようになったし、政府の機関もそれを表明しています。逆に言えば、結婚に関する本音がオープンに語られるようになったということは、「愛があれば貧乏でもかまわない」という恋愛至上主義が事実上なくなってしまったといえるのかもしれません。二十数年こういう調査を続けていると、社会の反応が如実に変わってきたのを痛感せざるを得ません。

■お金持ちを狙う女性ほど「年収は関係ない」と言う

本音ということで言えば、こんな面白い現象もあります。

婚活では、お金持ちを狙う女性ほどそういう本音は言わないし、言おうとしない。「結婚に年収は関係ない」と言いたがる傾向があります。拙著『「婚活」時代』の共著者であるジャーナリストの白河桃子さんが「セレブ主婦」のインタビューをしていたときに、ほとんどの人が「相手が大金持ちだから結婚したんじゃない」と話したそうです(白河桃子『セレブ妻になれる人、なれない人』)。

「好きになった人がたまたまそうだった」もしくは「結婚したときはお金持ちじゃなかった」といった回答です。つまり、「結婚するときは別に気にしなかったけれども、結果的に事業で彼が成功して、どんどん収入が上がっていって、たまたまセレブの地位にいるけれども」というふうに説明するのです。要するに「結婚に年収は関係ない」と言いたいのでしょうが、私に言わせれば、それは本音ではなく、建て前が残っているだけなのです。

高収入を狙う人たちとは別に、安定した収入がないと生活できないと本気で思っている人たちもいます。つまり、「年収1000万円と言っているのではない。普通でいいから600万円」というような人たちです。

■「結婚しない人がいてもいい」考えは広がっている

それでも、未婚男性の平均収入は時代とともに減少してきているので、結果的には結婚できた人とできない人に分裂します。要するに婚活では、男性は収入が安定している人のほうが結婚できるし、女性はとにかくそういう人と出会って、そういう人が自分を選んでくれるというチャンスに恵まれたら結婚できるというわけです。

山田昌弘『結婚不要社会』(朝日新書)

ちなみに、2018年のNHKの「日本人の意識」調査では、結婚することについて「必ずしも必要はない」と答えた人の割合が68%でした。この調査は1973年から5年ごとに行われているものですが、過去25年間で最も高い数値だそうです。

結婚が必要ないという答えは、もちろん、自分が結婚しなくてもいいという考えを示すものではありません。単に「結婚しない人がいてもいい」というだけで、逆に言えば、「結婚するんだったら、ちゃんとした結婚をしたほうがいい」と考えている人が多数派であることが推測できるわけです。つまり、さまざまな調査が示しているのは「自分は結婚したいけれども、他人はどうなろうとかまわない」と考える若い人が増えているということなのです。

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山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『少子社会日本』(岩波書店)、『家族難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)など。
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