子どものやる気スイッチは、ほめる+質問

子どもにもっとやる気を持たせたい。
でも、責め口調や煽りは厳禁。
「すごいね」の後の“おまけ”が大切なのです。(ライター・島沢優子)
 働きながら子育てをしている、首都圏に住む40代の女性Aさんに、中学生の息子たちに幼いときからかけた言葉を尋ねたら、手のひらで顔を覆った。
「穴に入りたくなるほど恥ずかしい」
 幼稚園の先生には「褒め言葉のシャワーを降らせてあげて」と言われていたが、「そんなのキレイごと」と助言に背を向けていた。年子男児2人の子育ては「毎日嵐の中にいる気分」。朝、その日の戦闘開始を告げる怒号は「ダメ」。食卓に手を伸ばせば「ダメ!」。麦茶を自分で注ごうとする手も「こぼすからダメーッ」と手をぴしゃり。
「どうしてあんなに叱っていたのかと心底後悔している。もっと違う方法があったはずなのに。自分にゆとりがなかった」
●自尊感情抹消ワード
 自分が子どもをきちんと育てなければという気負いがあった。「お兄ちゃんなんだから!」と大概兄を叱るので、萎縮する長男は一定の距離を開けたまま彼女の周りを衛星のようにぐるぐると小走りで旋回していた。
「お母さんたちは一日を計画通り過ごしたい。なのに、子どもにペースを狂わされ、自分を見失い感情をコントロールできずに叱ってしまう。イクメンと呼ばれるパパたちもオムツを替えるのはできるけれど、妻の混乱に寄り添えていません」
 こう話すのは、『子どもを伸ばす「いいね!」の言葉「ダメ!」な言葉』の著書がある、元幼稚園教諭で教育コンサルタントの河村都さんだ。以前は母が行き過ぎると父がストップをかけたり、その逆もあったりと、バランスのよいペアが見られたが、今は手を取り合って爆走する父母が少なくないという。
 河村さんが主宰する知育教室では、子どもたちほぼ全員の父親が参観に訪れる。あらかじめ「わが子を心の目で見て」と諭すが、わが子をスマホで撮影しながら、「おい、できないのか!」と怒り出してしまう父親もいるという。
「親御さんはわが子の出来に敏感すぎて、子どもを追い詰める言葉しか出てこない。例えば、3歳で1千日しか生きていない子に要求が高すぎる。もっと肯定してあげてほしい」
 アエラが実施したアンケートでは、「わが子に言ってしまい反省した言葉」に、「早くしなさい」「何でこんなことができないの」「ダメ」「お兄ちゃんなんだから」など心理的に追い込む言葉や、子どもを否定する「自尊感情抹消ワード」が並ぶ。「お父(母)さんにそっくり」は親子同時にバッサリだ。
●問いかけるほめ方
 では、小学生までの子どもの意欲を引き出す言葉とはどんなものか。『少年サッカーは9割親で決まる』を監修したJリーグ京都サンガF.C.普及部部長の池上正さんは、「問いかけるほめ方」を勧める。例えば、子どもが何か良いことをしたり、できるようになったりしたとき。「すごいね」だけで終わらせず、おまけの質問を付け足す。
「へえ、どうやってやったの?」
「何がヒントになったの?」
 これらの問いかけは「次の取り組みにつながる意欲を引き出すうえに、お母さんは自分にすごく関心がある、ひいては大事にされているという安心感につながる」(池上さん)という。無視や無関心が子どもにとって一番痛手になることを思えばうなずける。ほめた後にひと言質問を加えればいいのだから、すぐに実践できそうだ。
『思春期の子をやる気にさせる親のひと言』の著者で、自称「やる気スイッチマン」の大塚隆司さんは、ベテラン家庭教師。不登校の小学校高学年、中高校生を支えてきた。
●ひとつのダイスキに
 大塚さんが挙げる中高校生へのNGワードは「どうしてそういうことするの!」「だから、言ったじゃん」「おまえにできるわけがない」など、責め口調の否定形が多い。
「今のままでいいと思ってるの?」「相当ヤバいよ」といった、不安を煽る言葉も歓迎できないという(32ページの「家族辞苑」に詳述)。
「本人がヤバいと思わないと勉強しませんなんて、学校の先生がよく言う言葉。でも煽り言葉に反応して勉強しても、少しよくなるとやる気はすぐ落ちる。健全なやる気は引き出せないと思った方がいい」(大塚さん)
 ヤバいぞと煽られ続けた日本の若者たちは、自分への満足感も将来への希望も諸外国と比べて低い。
「今がダメだからやれ!」と命令されても響かない思春期は、承認→期待→応援の3ステップを踏むことが肝要だ。
「今のままで大丈夫だよ」と肯定すれば「もう少し頑張ったら、もっと大丈夫かも」と思える(承認)。次に「これから良くなるよ」と励ませば(期待)、気持ちが上向きになる。その次は「君ならできる」と応援すればいい。
 意外なことに「こうしたらいいよ」のアドバイスもやめたほうがいいそうだ。子どもが求めているタイミングとずれれば「うっとうしいだけで逆効果」(大塚さん)なのだ。自分でもわけのわからない嵐が吹き荒れる思春期は、実にフクザツ。
 最後にとっておきの言葉を。学校でいじめを受けていたという小学5年生の教え子に、大塚さんがどうして学校に行けたの?と問いかけたら、少女は笑って答えた。
「いっぱいのキライは、ひとつのダイスキに負けちゃうんだよ」
 少女の母親は「あなたが大好きだよ」と言い続けていたそうだ。
■わが子に言ってしまい反省した言葉
※調査はインターネット調査会社ミクシィ・リサーチの「チャオ」を通じて7月上旬に実施。全国の20~50代の男女500人が回答した
・何でこんなことができないの!
・早くしなさい!
・どうしてそういうことするの!
・言うことを聞きなさい!
・そんな子は嫌いだよ!
・何度も同じこと言わせないで!
・みんなに嫌われるよ
・もう、知らないからね!
・お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから
・ダメ!

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