子どもの距離に戸惑う保育現場 「新しい生活様式」手探り

新型コロナウイルス予防として国が示した「新しい生活様式」が、保育や幼児教育の現場に戸惑いを生んでいる。示された通りに子どもに接すると、人との関わりの中で養われる子どもの成長を妨げる可能性があるからだ。広島県内の現場でも、どうやって育ちを守るのか模索が続く。 不織布マスクの「上と下」「裏と表」の見分け方  1人の子どもが面白そうに遊んでいると、子どもたちが次々に集まって話し始める。そのたび、ともえ保育園(広島市中区)の坂本智恵園長(51)は戸惑う。「どのくらい密になったら『離れて』と言わなくちゃいけないのか」  新しい生活様式には、人との間隔を2メートル空ける「身体的距離の確保」が盛り込まれている。一方、子どもは遊びの中で友達と集まり、アイデアを出し合う体験を通じて、コミュニケーション能力が発達し、思考力が育つ。幼児期は、そうやって人としての「土台」を築く大切な時期という。  坂本園長は「『離れて、離れて』と保育士が言ってしまうと、後々に影響が出てしまうのではないでしょうか」と悩む。  とも認定こども園(安佐南区)の龍山永明園長(68)は「身体的距離の確保」に加え「マスクの着用」が成長に与える影響を心配する。マスクは表情を隠し、「人の気持ちを読み取る練習ができにくい」と話す。  食育への影響も気にする。新しい生活様式では「対面ではなく横並びで座ろう」「料理に集中、おしゃべりは控えめに」とある。山本克子副園長(62)は「黙々と食べると、食事の楽しさが失われてしまいかねない。嫌いな物に挑戦しようという気持ちも湧きにくい」と話す。  両園とも、できる限りの感染予防に取り組んでいる。園舎の消毒や園児への手洗い指導、全園児を集めた集会の中止―。ともえ保育園は、広島市が先月下旬に示した保育所での対応例に従い、昼寝の時には布団の間隔を空け、子どもの顔と足が交互に並ぶように寝かせるようにした。坂本園長は「子どもの命を守ることが1番大事。でも、育ちも守りたい」と強調する。  保護者の心中も複雑だ。西区の事務職女性(30)は「園内で新型コロナの感染者が1人でも出たら、子どもを預けられなくなる。新しい生活様式を保育園でも守るしかないのではないでしょうか」と話す。東区の薬剤師女性(37)は「安全対策と子どもの成長を支える保育のバランスをうまく取ってほしい」と願う。  広島県私立幼稚園連盟の住田直之理事長(57)は「保護者にも多彩な意見があり難しい」と明かす。「子どもの成長を妨げないよう、新しい生活様式を私たちなりにどう解釈するか、今はまだ手探りです」  比治山大子ども発達教育学科の加納章准教授(55)=乳幼児保育専門=は保育士たちに工夫を提案する。マスク着用時は声色を変えたり身ぶりを交えたり、目元の表現を意識したりして、少しでも表現豊かに話し掛けるよう促す。子ども同士を離すときは「大変な病気がはやっていて、つばが友達に飛んだらいけないからね」といった丁寧な説明が大切という。「友達と仲良くするのは悪い」と子どもが誤解するのを防ぐためだ。  加納准教授は「子どもはどういう状況でも遊ぶ。『どうやったら遊びに変えられるか』という視点を忘れないでほしい」と呼び掛けている。

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