東京都が騒音を規制する条例から子供の声を除外する方針を打ち出したことに、都内の自治体や住民から賛否の声が寄せられている。
都は18日開会の都議会に、除外対象を「小学校入学前の子供の声」とする条例改正案を提出するが、改正に反対する意見のほか、部活動の声が騒音扱いされないよう、除外対象を中高生にまで広げるよう求める意見なども根強い。子供の声は騒音なのかを巡って、論議を呼びそうだ。
■悩む自治体
「我々は子供の声に不寛容で良いのだろうか」。世田谷区の保坂展人区長は1月8日の定例記者会見でそう語り、都条例の騒音規制から除外する子供の年齢を「18歳以下にすべきだ」と都に要望したことを明かした。
同 区内の公立中学校の校長は「周辺住民から一人でも『うるさい』と苦情があれば、配慮せざるを得ない。大きな声や音が出る運動会の前には、住民に理解を求め る手紙を配布している」と話す。練馬区の中学校では部活動の早朝練習に対し、「生徒の声が耳障りだ」という苦情が寄せられた。隣家との距離が数十センチし かない大田区の中学校のプールでは現在、高さ2・5メートルの遮音壁の工事が進んでいる。
目黒区の担当者は「最近は、教員の指導の声がうるさいというクレームまである」と打ち明ける。
■話し合いで解決
2000年に制定された都環境確保条例は、「何人(なんぴと)も規制基準を超える騒音を発生させてはならない」と規定している。場所や時間帯によって音量の基準値を設けており、これに違反した場合は、都と区市が事業者側に勧告を行うことができる。町村については都が行う。
ところが、練馬区では12年、この条例を根拠に、保育所の周辺住民が子供の声を「騒音」だとして、差し止めを求める訴訟が起きた。都議からは「子供の声を工場などの騒音と同列に論じるのはおかしい」との指摘もあり、都は昨年3月、条例の見直しを始めた。
都 によると、条例の見直し案では、音の発生源が〈1〉小学校入学前の子供とその保育者〈2〉子供の声や足音、遊具や楽器の音〈3〉保育所や幼稚園、児童館 ――などの条件を満たした場合、数値規制から除外する。一方、周辺住民にも配慮し、子供の声が「我慢すべき限度(受忍限度)を超えているか」を都や区市が 総合的に考慮し、双方の話し合いによる解決を目指すという。
除外対象を「小学校入学前の子供」にしたのは、「乳幼児期に遊びは欠かせず、声を出すのはやむを得ない。小学生になれば集団や社会のルールを守る態度を身に付ける段階だから」(都幹部)と説明する。
■アンケート
都は昨年3月、都内49区市を対象にアンケートを行った。それによる と、子供の声を条例で規制することについて、「賛成」は3自治体、「賛成だが規制を緩和すべきだ」が10自治体、「反対」が13自治体。除外の対象年齢に ついては、都が導入する予定の「小学校入学前」は2自治体にとどまり、「中学校入学前」が10自治体、「高校入学前」が8自治体だった。
都民の受け止めも様々だ。都が昨年12月~今年1月に行った意見募集には134件の意見が寄せられた。このうち79件は「声を出すことは子供の心身の発達に大切」「のびのびと外で遊べないことが運動能力低下の原因」など見直しに賛成する意見。
一方、45件は「大勢の高音の声は耐え難い」「夜勤従事者の安眠が妨げられる」などの反対意見だった。
また、「受忍限度」についても、「具体的な判断方法があいまいで実効性に不安がある」という意見も目立った。