≪陰に本音…相互理解は可能≫
昨年12月に出版された『悲鳴をあげる学校』(旬報社)が、話題を呼んでいる。著者は、平成12年から学校に対する“イチャモン”について研究している大阪大学大学院人間科学研究科の小野田正利教授(51)。「イチャモンの増加で、学校は疲弊しています。ただ学校や保護者を一方的に責めたり、教員を擁護する問題ではありません。イチャモンの本音を読み取り、保護者と学校との正しい関係を築くことが必要です」と訴える。(村田雅裕)
■解決不可能な難題
イチャモンとは何か。小野田教授によると、当事者の努力では解決不可能で、学校の責任能力も超えている理不尽な内容の「無理難題要求」。
例えば、「子供がひとつのおもちゃを取り合って、ケンカになる。そんなおもちゃを幼稚園に置かないでほしい」「自分の子供がけがをして休む。けがをさせた子供も休ませろ」「親同士の仲が悪いから、子供を別の学級にしてくれ」「今年は桜の花が美しくない。中学校の教育がおかしいからだ」…。いずれも実例だ。
小野田教授は17年3~4月、関西地区の幼稚園、小・中学校、高校、養護学校の校長、教頭などを対象に、保護者対応に関するアンケート調査を行った。親の学校への要望や苦情の内容について「大いに変化を感じる」との回答が59%、「少し変化を感じる」が35%と、9割以上もの学校関係者が変化を感じていると回答した。そして、約80%が無理難題要求、イチャモンが増えていると答え、特に小学校では、約90%がイチャモンが増えていると回答。増えた時期は、1990年代後半以後という。
■教師の地位低下
なぜ、90年代後半から増えたのか。保護者の調査はしていないので仮説だが、70年代後半から80年代前半に、中学校を中心に校内暴力が社会問題化し、「あるべき教師像」が揺れた。
そして、その世代が就職するときは日本経済はバブル期で、教員・公務員の人気は低かった。この世代が小学生の親になるのが90年代後半。「教師への尊敬の念がなく、自分と同等という潜在意識があり、垣根が低くなったのでは」と小野田教授は分析する。
さらに、少子化や地域社会の崩壊、保護者の孤立化などで、学校が特別な存在ではなくなった。バブル崩壊後の“弱い者いじめ”や“言ったもん勝ち”といった社会風潮も、イチャモンを助長しているのではないかと指摘する。
「子供のいない世帯が増えたから、学校に対する遠慮もなくなった。自分たちもかかわりながら、子供を育てていくという感覚は確実に薄まっていますね」
だが、そんな状況でも、学校側は「善意の集団」という体面を守らなければならない。「中学生が暴れているから、注意しにこい」との連絡を受け、現地に行く。確かに自校の生徒だが、全員同じマンションの住人で、通報者はマンションの管理人。こんなイチャモンにも対応しないといけない。だから、疲弊する。
■第三者機関を提案
小野田教授はこの6年間、教育現場を回り、全国で約300回の講演を行い、今も講演依頼が絶えない。イチャモンに対応するために、(1)教員は集団で対応する(2)企業のクレーム係のように第三者による調整機関を作る-などの方法をアドバイスしている。
大阪府内で2月中旬に開かれた小中学校の教職員の研修会での講演で、小野田教授は力説した。
「イチャモンには、理由があります。先生は協力して、本音を読み取ってください。親にとって、学校は敵ではないはずです。学校も世間知らずかもしれません。しかし、世間も学校知らずです。イチャモンをきっかけに、スタンドプレーをするつもりで、地域を巻き込んで活動してください」
教育現場での相互不信を相互理解に変えていく作業は、保護者、学校の双方に課せられた課題だ。
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