学歴より重要「独学力が高い人、低い人」決定的差

企業内外での学びについて、いま「リスキリング」が注目を集めている。「リスキリング」は「学び直し」と訳されることが多いが、「変化する社会で、今後必要となるスキルや技術を学ぶこと」である。
そこで重要なのは「学ぶ姿勢」、つまり「独学力」が身についているかどうか。独学は受け身ではなく、「なぜ学ぶか(Why)」「何を学ぶか(What)」「いかに学ぶか(How)」の3つの要素による「学びの主体性」が不可欠な条件になっている──。
『キャリアショック』『新版 人材マネジメント論』などキャリア関連の数多くの著作があり、30年以上にわたって、経営の視点から人事や人材マネジメントの研究を続けてきた高橋俊介氏が、このたび「『独学力を高める』社会人の学び方」を1冊で完全解説した『キャリアをつくる独学力:プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』を上梓した。「『独学力を高める』ことは、仕事上のキャリアだけでなく、人生全体を豊かにする」と断言する。
世界有数の人事コンサルティング会社の日本法人代表を務め、現在もキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事し、日本に「キャリアショック」という概念を広めた「キャリア論の第一人者」である高橋氏が、「学歴より重要な『独学力の高い人・低い人』7つの決定的な差」について解説する。

「独学の重要性」に着目するようになった理由

私は、30年以上にわたり、経営の視点から人事や人材マネジメントを考える研究を続けてきました。

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにあるSFC研究所の中に設立されたキャリア・リソース・ラボ(通称キャリアラボ)では、創設当初から教員として参画しています。キャリアラボはキャリアに関する包括的な研究を行う組織で、私は「個人主導のキャリア形成」を主たるテーマとして研究をしてきました。

「独学」というと、「独学=我流」と本流でない学びといったネガティブなニュアンスが浮かびがちですが、これに対して私は、「独学」を「学びの主体性」と再定義しました。

私がいま、独学を「学びの主体性」として再定義する大きな要因の1つは、「仕事の自律性」や自律的なキャリア形成を目指すうえで「学びの主体性」が不可欠な条件になってきたからです。それは、私が「独学の重要性」に着目するようになった理由でもあります。

就活の際、エントリーシートや履歴書に書いた「学歴」は、社会人には役に立ちません。長いキャリア人生においては、「独学」こそがキャリアを切り開く糧になるのです。

つまり、これからは、独学力を高めていく必要性が出てくるのですが、残念ながら、「独学力の低い人」も多く存在し、「独学力の高い人」とは決定的に異なるところがあります

では、「独学力の高い人と低い人の差」とはどのようなものでしょうか。多数考えられるなかから、主な7つのポイントを紹介しましょう。

1つめは、「『過去や知識の伝承』に偏っているか」ということです。

「ヨコの学び合い」が「学びの主体性」を引き出す

【1】「過去や知識の伝承」に偏っているか

日本企業の人材育成は、社内で年長者が自分の積み重ねた経験と知識を伝えるだけの「タテ型OJT」が中心でした。教えられる側は、教える側の過去の経験や知識の伝承に従います。

しかし、過去の経験や知識に縛られてばかりの「タテ型OJT」では、思考や行動が固定化してしまい、環境が大きく変わっていった場合、新しい環境についていけなくなる可能性が大きくなります。

「過去や知識の伝承」に偏ったままでは、「独学力が高い人」と、どんどん差がついてしまうのです。

【2】「『会社の枠』を超えた学び」ができるか

独学力の高い人は、「タテ型の伝承」に偏ることなく、主体的に学ぶ個々人が形成する「ヨコの学び合いの場」などに参加し、刺激し合い、「気づき」を得ていきます。それも、社内だけでなく、同じような専門性を追求する人同士が「会社の枠」を超えて学び合うのです。

「ヨコの学び合いの場」が有効なのは、互いに刺激し合い、気づきを得ていくことで、個々人の「学びの主体性」が引き出されるからです。独学力が高い人は、会社の枠を超えた、ヨコの学び合いを大切にしています。

【3】受験勉強の延長で「丸暗記」しかできないか

日本において、主体的な学びを妨げる1つの要因として、学びに「楽しさ」や「面白さ」を感じる人が少ないことがあります。

その背景にあるのは、学生時代の「丸暗記の受験勉強」の体験でしょう。歴史などについても、登場する人物の名前と年号の「丸暗記」の記憶しかありません。さらに、丸暗記は「孤独な作業」です。

いつまでも「丸暗記の受験勉強」の延長のままでは、刺激し合う「ヨコの学び合いの場」もないため、独学力には差がつくいっぽうです。

4つめは、「『楽しく、面白く』学習自体を楽しんでいるか」ということです。

独学力で大切なのは「学びの楽しさや意味を感じること」

【4】「楽しく、面白く」学習自体を楽しんでいるか

丸暗記の記憶しかない日本史や世界史関連の本を、大人になって読むと「歴史の面白さ」を再認識することがあります。そんなときは、丸暗記式の受験勉強の「不毛さ」を感じます。

独学力で大切なのは、「近視眼的な功利性の追求」ではなく、「学びの楽しさや意味を感じること」です。

自分は学習自体を楽しんでいるのか、学習の中身に意味を感じているのか。学びを楽しむことや意味を感じることで、独学力はどんどん高くなっていきます

【5】正解のないものでも「自論」を導き出せるか

「ジロン」は通常、「持論」という用語が使われます。これに対し私は、「さまざまな事象に対して、その都度『私はこう思う』と自分の考えを明確にし、発信していく」という意味合いで「自論」という独自の表現を使っています。

環境変化によりビジネスモデルが大きく変化し、個別性の高いソリューションビジネスが重要になってくると、正解のない事象について、「私はこう思う」と「自論」が必要になってくることが増えてきます

「独学力の高い人」は、このような場合でも「自論」を導き出すことができます

【6】正解のあるものをただ導く「正解主義」か

日本の学校では、「この問題はこれが正解である」という「正解主義の教育」が行われてきました

そのため、「正解のない問題」に対し「自論」を導き出す能力がないまま成人しても問題はなく、就職したその組織でも、とくに問題は起こりませんでした。

しかし、環境変化が激しく正解のない時代で「自論」が必要とされてきているいま、「正解のあるもの」をただ導いて終わるだけの「正解主義」では、多くのことが通用しなくなっていきます

「正解主義」しか身についていない人にとっては、独学力には限界が出てくる可能性が大きいです。

最後は、「『先生や師匠』がいなくても学べるか」ということです。

【7】「先生や師匠」がいなくても学べるか

「日本人って先生病なんですよね」と言われるほど、多くの日本人は、学ぶときは、お師匠さんについたり、修業したりしないといけないと思っています。

しかし、いまはインターネットもあるし、何だって自分で学ぼうと思えば、お師匠さんがいなくても、修業をしなくても学ぶことはできます

「独学力の高い人」は、他人に頼ることなく、自分で学び方を探し、成功へとつなげていくことができます。

変化の激しい時代は「自律的なキャリア形成」が必須

キャリアラボでの研究成果をもとに、2000年に『キャリアショック』(東洋経済新報社)を出版しました。

「キャリアショック」とは、私が提唱した概念で、自分がそれまで積み上げてきたキャリア、自分の思い描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境や状況の変化により短期間のうちに崩壊してしまうことをいいます。

しかし、変化の激しい時代に生きるビジネスパーソンにとって、「キャリアショック」の危機的状況に陥るリスクがいまや完全に現実のものとなり、「自律的にキャリア形成していく必要性」がますます高まっています

今一度、「独学」の学びのスタイルを見直して、変化の激しい時代にも対応できる「プロフェッショナルな人材」になってほしいと、長年、キャリア論を研究をしてきた筆者として、強く願っています。

(高橋 俊介 : 慶應義塾大学 SFC研究所上席所員、キャリア論の第一人者)

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