日本の宅配便は1970年代、電話一本で小さな荷物でも集荷、配達するヤマト運輸の「宅急便」でスタートした。1980年代に入るとコンビニ窓口での集荷や高速道路網の拡充で利用者が急増する。1988年には冷蔵・冷凍品の「クール宅急便」(ヤマト運輸)がスタートし、1998年には時間指定配送、2008年頃から地域限定の当日配送も始まった。いまや宅配便は「日本全国、指定した時間に必ず届く」と認識されている。
だが、そんな宅配便システムを維持することは今後難しくなりそうだ。東京・世田谷区の主婦が憤る。
「翌日のお昼に子供の誕生日会を開くから、可愛らしい飾り付けをネット通販の『翌日配達』の午前着で注文した。ところが、指定した時間に来ない。宅配業者に電話すると“荷物が多くて到着はお昼すぎになる”といわれてしまった。できないなら時間指定なんてさせないでほしい」
本誌が大手宅配業者に取材したところ、「遅配」の件数は公表していないという。だが、昨年末のお歳暮の時期や、今年4月の消費増税前の駆け込み需要時には遅配が増加したことが報じられた。
困っているのは利用者だけではない。大手宅配業者のベテランドライバーがいう。
「この数年、ネット通販の荷物が爆発的に増え、捌(さば)ききれない日も少なくない。お中元やお歳暮など時期があらかじめわかればドライバーや仕分けスタッフを増員できるが、たとえば話題商品の発売でネット注文が突然増えた時などは対応しきれない。
最近はどの荷物を遅配させて、どれを間に合わせるかを考えるのも一苦労だ。ナマモノや、過去にクレームを受けた配送先を優先し、再利用のみかん箱に入れられたような荷物を後回しにすることもある」
こうした状況は日本だけの話ではない。ネット通販が普及しているアメリカでは、すでに「届かない」ことが当たり前になりつつある。
物流コンサルティング企業「イー・ロジット」の代表取締役で『物流がわかる』(日経文庫)の著者・角井亮一氏がいう。
「2年前のクリスマスの遅配率は、物流トップのUPSで3.4%、2位のフェデックスで2.4%でしたが、昨年はそれぞれ17%、10%に激増しました。ネット通販業者がギリギリまで受注を取って発送しようとしたためです。
そのため、アメリカでは今年、クリスマスの朝までに間に合わせたい場合、1週間前の12月18日以前を締め切り日にする通販業者が増えています。15日を締め切り日にする業者は昨年は10.5%でしたが、今年は21.2%に増えました」
※週刊ポスト2014年12月19日号