安くなった日本の土地…いま、中国人富裕層が「京都の不動産」を続々と買い占め始めた

コロナ禍収束の兆しが見え始め、客足も戻りつつある千年の都・京都。その土地を巡って水面下で中国人たちが動いている。伝統ある神社仏閣や花街といった日本人の「遺産」の行方はどうなるのか。

中国製の高級車で登場

京都市内でも屈指の観光スポットで知られ、古都らしい風情の漂う祇園・東山。南北に走る東大路通りの車道に一台の黒塗りのセダンが停まる。颯爽と降り立ったのは、王彬氏(仮名)だ。

「今日は一棟貸しの町屋旅館にリノベーションする建物の下見に来たんです。私の会社だけでも、東山エリアではこれで3軒目になるかな。とにかくこの一帯は中国人に人気で買うのも一苦労です。

この車?第一汽車の紅旗『H9』ですよ。昨年2月に上陸したばかりで、大阪の日本一号店で買いました。値段は800万円くらいだったでしょうか。紅旗は中国要人にも愛される車ですから、私も乗っていて気持ちがいいです」

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そう言って高級車を乗り回し、京都市街を物色する王氏は北京出身の在日華僑だ。日本の外資系合弁メーカーに就職した後、独立して京都に不動産コンサルティング企業を設立。宿泊施設の運営や、海外投資家向けに不動産売買仲介を行っており、京都の土地や建物の買収に動いているのだ。

彼のような存在はこの地では氷山の一角にすぎない。今、「中国資本」によって、京都の町が次々と買い占められている。標的となるのは伝統ある神社仏閣に至近の土地だ。王氏はこう話す。

「日本人の場合、定年退職後に移住してくるケースが多く、交通の利便性を重視してか、南は京都駅から北は丸太町の、堀川通り沿いの土地を買う傾向にある。これが中国人になると少し感覚が違う。

観光地が最寄りにあることが大前提だから、特に祇園・東山が人気になる。ただ建仁寺周辺のような、寺社保有の土地は手出しできません。その点、清水寺や八坂神社、高台寺周辺は意外に個人保有が多く、買い漁るにはうってつけなわけです」

コロナ禍で大混乱の隙に中国の大富豪が東山の一等地を手にした-そんな話が京都人の間で噂になったのは、新型コロナウイルス第1波の最中、’20年4月のことだ。

「清水の舞台」で有名な清水寺の仁王門をくぐり、清水坂を抜け、三年坂(産寧坂)を下っていくと、ちょうど東山のシンボル、八坂の塔に突き当たる。そのすぐ手前、昔ながらの商店が立ち並ぶ八坂通りの一角にその”土地”はある。

北に位置する豊臣秀吉公ゆかりの高台寺や、「祇園さん」と親しまれる八坂神社も徒歩圏内だ。

全人代代表の妻の名が

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建っているのは、いまだ手つかずの古びた町屋だが、建築計画概要を記載した標識は立っている。建築主の欄に書かれているのは「WU・LAM・LI(ウー・ラム・リー)」の文字。明らかに日本人の名前ではない。

不動産登記によれば、この土地の現所有者は中国の香港特別行政区・九龍に所在地を置く「香港南湖投資有限公司」と、やはり中国資本の様子。標識に書かれた代理連絡先に電話をかけてみたところ、「建築主様の個人情報をお伝えすることは難しい」との回答しか得られなかった。一体彼らは何者なのだろうか。

「このウー・ラム・リーという女性、すなわち李琳という人物は、中国の不動産会社『セントラル・チャイナ・リアル・エステート』の創業兼会長を務める胡葆森(ウー・ポー・サム)の妻です。

夫は推定22億2000万ドル(約2800億円)の資産を持ち、フォーブスの中国富豪リストにも掲載された、中国でも最も裕福な人物の一人。しかも過去’08年と’13年の2回、中国の全人代の代表に選出されている大物でもあります」(中国の不動産事情に詳しいエコノミスト)

そもそも、この土地は数年前まで日本人が暮らしていたという。それをみすみす中国資本に売り渡すことになってしまったのには、止むを得ない事情がある。高台寺前で土産店を営む店主の談。

「前の住人は、京都に移住してきた方やってんけど、奥さんが年々、夢見坂の坂道を歩くのがしんどい言って売却。別荘用に購入したのは中国系オーストラリア人と聞いていたんですが……」

京都の高齢化率を行政区別で比べると、最も高いのはこの東山区。石畳の坂道や階段は、観光客にとっては風情があるように映ったとしても、そこで暮らす高齢者にとっては手放したくなるほど苦痛でしかないのだ。

中国人がセカンドハウスとして、京都の不動産を買うケースは少なくない。しかし多数を占めるのがホテルや旅館などの宿泊施設保有を目的に買い占めに動く中国人だ。

それは京都市が公開している『旅館業法に基づく許可施設及び施設外玄関帳場一覧』を見れば明らかだという。その施設の所有者を示す「申請者氏名」を確認する中国人らしき名前がずらりと並んでいるという。週刊現代はその中の一つ、中国の投資会社「蛮子投資集団」に注目した。その理由は『チャイナタウンが誕生か…?ここにきて中国人が京都の「ホテル」「旅館」を買い占めているワケ』でお伝えする。

『週刊現代』2022年5月28日号より

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