官邸の「反政府番組監視」 小川彩佳・和田アキ子・IKKOも対象

安倍政権が官僚支配と並んで力を入れてきたのがメディア支配だ。本誌・週刊ポストが前号で官邸の内閣広報室がテレビ番組を監視していることを示す“機密文書”を報じると大きな反響を呼び、キー局の番組関係者から、「うちの番組は監視対象なのでしょうか」との問い合わせがあった。この監視文書をもとに、官邸は気に食わない報道やコメンテーターの発言があると公式ツイッターで反論し、報道に“圧力”をかけてメディア支配に利用していたのだ。

 内閣広報室の番組監視は分析チームの職員3人ほどが専従となって、毎日、番組を視聴して出演者の政策に対するコメントなどを書き起こす作業を行なっている。記録文書は東京都内の男性会社員が情報公開請求して入手し、本誌が提供を受けた。開示文書は2月1日から3月9日付までの約1か月分だけでA4判922枚に及び、2種類に分類されている。

 1つは「報道番組の概要」とのタイトルで、朝は「スッキリ」(日本テレビ系)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)、「とくダネ!」(フジテレビ系)の3番組、昼は「ミヤネ屋」(日テレ系)と「ひるおび!」(TBS系)、そして夜は「報道ステーション」(テレ朝系)と「NEWS23」(TBS系)の番組内容が毎回、ルーチンワークで記録されていた。TBS系の「グッとラック!」、フジテレビ系の「バイキング」、日テレ系の「news zero」は基本的には監視対象外のようだ。

 その中でも「報道ステーション」と「NEWS23」は、2014年の総選挙前、自民党がその報道ぶりを批判して民放各局にゲストの選定や街頭インタビューについて「公平中立」を求める“圧力文書”を出すきっかけとなった安倍政権と因縁の番組であり、今も“要注意”の監視対象になっていることがうかがえる。記録されているのは、原則として政治に関連する出演者の発言が分刻みで書き起こされている。

 もう一つは「新型コロナウイルス関連報道ぶり」のタイトルで日付ごとに分類され、出演者のコロナに関連する発言がピックアップされている。3月6日付の文書には「NEWS23」の〈入国規制 政治決断の背景〉としてこう記されていた。

〈小川彩佳・キャスター「この規制に踏み切った政府ですけれども、なぜこのタイミングなのかについては、国会でもその政治的判断の根拠ですとか、これまでの措置と矛盾しているんじゃないかということも指摘されています(後略)」〉

 小川アナが安倍首相の「今が正念場である」などの発言を紹介すると、〈評論家・荻上チキ氏「言葉は一個一個強いんですけれども、根拠であるとか、裏付けというのは不透明ですよね(後略)」〉というやり取りが続く。

◆克明に記録されたやり取り

 開示文書には橋下徹氏、岸博幸氏から田崎史郎氏まで様々なスタンスの論者の発言が並んでいるが、飛び抜けて多いのが「モーニングショー」のコメンテーターで政府批判で知られる玉川徹氏と、コロナ対応で歯に衣着せぬ発言で知られる公衆衛生学者の岡田晴恵・白鴎大学教授だ。岡田氏は「モーニングショー」だけではなく、「アッコにおまかせ!」(TBS系)に出演した際の和田アキ子やIKKOらとのやり取りまで克明に記録されていた。

 もう1人、官邸にマークされていたのがクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗り込んで政府の対応を告発した岩田健太郎・神戸大学教授だ。「機密性2情報」の印字がある2月17~21日付の文書には、「○岩田教授」の項目が立てられ、岩田氏が出演した各番組での発言や、他の有識者が岩田教授について語った内容が18枚にわたって整理されている。

 文書を分析すると、官邸が政府の政策や対応について各局がどう報じているかを幅広くモニターするのではなく、批判的な番組やコメンテーターの発言を重点的に収集していることがわかる。

 それにもかかわらず、本誌報道後も監視対象となっている局は沈黙を守ったままで、特定の番組や出演者の発言を監視するのかの説明を政府に求めようともしない。長年のメディア支配で“牙”を抜かれてしまったのか。

 しかし、大新聞やテレビの報道をコントロールし、政権に都合の悪い事実を国民に知らせないようにする安倍政権のメディア支配戦略はもはや通用しなくなってきた。政府がゴリ押ししようとした検察庁法改正がSNSを通じた国民の批判の高まりで断念に追い込まれたように、いまや国民がネットで直接権力を監視する社会になり、大メディアもネット世論を無視できなくなってきた。安倍政権のメディア支配も官僚支配とともに崩壊に向かっている。

タイトルとURLをコピーしました