実は怖い「同一労働同一賃金」 正規も非正規も幸せにならない理由

昨年(2020年)4月から始まった「同一労働同一賃金」。今年4月からは中小企業にも施行されることになりました。今回は日本の働き改革のメインコンテンツでもある、同一労働同一賃金について考えていきます。

今までの経緯を見ると「経団連が同一労働同一賃金を求め、労組は消極的だった」という、ちょっと不思議な側面も実はあったのです。詳しく見ていきましょう。

いまの働き方は成長を阻害する!?

日本の同一労働同一賃金は、「働き方改革実現会議(2016年/第3次安倍内閣)」を中心として議論されてきました。アベノミクスの第三の矢「成長戦略」と働き方改革は紐づいています。

働き方を変革するのが成長につながるというのは卓見だと思います。その前提はいまの働き方が成長を阻害しているということになりますが。

とはいえ、筆者はアベノミクスを評価する者ではありません。実を言うと、アベノミクスが何なのか、よく分かっていないのです。第一と第二の矢は・・・「金融緩和」「財政出動」でしたか、たしか。

ただ、この組み合わせはケインズ経済学の定番政策で、たとえばリーマンショック以降の欧米では、いち早くその方向に舵を切り、日本が先進諸国内では最後発だと思います。

ですから前総理が「バイ・マイ・アベノミクス」と、新しくもなく、名前をつけただけの政策を、なぜドヤ顔で語っているのかサッパリ理解できなかったという思い出があります。話が脱線しました。それでは話を同一労働同一賃金に戻します。

「同一労働同一賃金」と無縁だった日本

まず、同一労働同一賃金の歴史をみてみましょう。同一労働同一賃金は国際労働機関(ILO)を中心に展開されてきました。まず、1919年のヴェルサイユ条約において、「同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受けるべき原則」が提案されました。

同一労働同一賃金で有名な国としては、スウェーデンがあげられますが、1960年代から社民党政権下で中核的な政策として同一労働同一賃金を推進します。

当時の日本では、同一労働同一賃金が“実現を視野に入れた政策”として議論されることは皆無でした。高度成長期に突入した日本は、職能給をベースとした「年功序列」「終身雇用」という働き方を選択しましたから。

職能給については、最近さまざまなメディアで解説されていますが、これはポジション給ともいうべき「人に仕事をつける」という考え方。

これに対して「仕事に人をつける」のが職務給で、最近なにかと話題になっているジョブ型雇用がこれにあたります。欧米では基本的に職務給が基本ですから、本来的に同一労働同一賃金が導入しやすいという側面もありました。

海外の場合は、企業の枠を超えて業界内の同一賃金を志向していますが、これは産業別の労組が存在するからで、日本での実現は困難だとも言われています(日本は原則的に企業別労組)。

非正規の賃金アップは誰が払うのか

日本の同一労働同一賃金の目的は「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指す」ことです(出典:厚労省サイト)。

海外と比較して、この「同一企業内」というのが日本型同一労働同一賃金の特徴です。

日本では、非正規雇用者の賃金は正規の6割弱ですが、欧州各国をみると8割から9割の水準です。日本も将来的には欧州並みの水準に近づけたいというのが日本政府の狙いです。

さて、ここで「そもそも論」です。その非正規雇用の賃金アップのための、お金はどこから出るのか。

よく考えれば分かることですが、全員が“高い賃金水準”で同一になれば、とてもハッピーですが、世の中はそんなに甘くありません。本来的には正規社員サイドの賃下げという面が必ず入ってきます。

これは正規社員ひとり一人の賃下げの他に、「正規社員総枠」としてのコストカット、つまり急増する早期退職の募集や、ジョブ型雇用への転換などが含まれます。これが冒頭で書いた日本の労組が同一労働同一賃金に消極的だったと思われる背景です。

まあ、これで正規と非正規の均等・均衡待遇が実現すれば幸いですが、非正規サイドの職務規定を調整して賃金アップを抑制し、正規サイドのコストカットだけが進行したら堪らないという面はありますよね。また話が脱線しました。

「夢は正社員」は完全な時代錯誤

ここで海外事例を再度チェックしてみます。参照モデルは20世紀後半の “スウェーデンモデル”。

「レーン=メイドナー・モデル」とも呼ばれるモデルですが、これは企業の枠を超えて、業界内での同一労働同一賃金を実現しました。大企業では賃下げ、中小・零細企業では賃上げと、賃金水準は中間位に設定されます(連帯的賃金政策)。

当然、中小・零細企業は経営が苦しくなります。

ここで日本だと「雇用調整助成金」という必殺技が登場するわけですが、「では市場退出(倒産)してください」がスウェーデン流ということになります。そして失業者を「積極的労働市場政策(アクティベーション)」を通して、成長・高収益市場へと労働力移転させたわけです。

このモデルは20世紀後半の輝かしい成功モデルですが、正直なところ現状は、かなり苦しくなってきているとも言われています。

それは、成長・高収益市場のカタチが変質してきているからです。つまり、高収益の開発や知財という職種は、製造業メインだった昔と比べて、そんなにたくさん“席”がないということです。

日本の同一労働同一賃金は海外と比べて、数十年遅れて導入されます。その間に世界のカタチも激変しています。果たして、日本の同一労働同一賃金がどのように着地するのか、予測が非常にムズカシイところです。

ただ、某政党が以前掲げた「夢は正社員」というのは完全な時代錯誤だと思います。“一億総中流社会”の復活は、夢のまた夢というのが出発点なのではないでしょうか。

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