実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」、大きな転換期に

「明日から清掃やゴミ出しの管理はどうすればいいのか」

 東京都渋谷区のマンションで理事長を務める男性は途方に暮れた。独立系の管理会社が、9月末をもって突然撤退したためだ。

 管理会社は契約上、撤退の3カ月前までに管理組合に通告する必要がある。理事長の元に管理会社の担当者からメールが送られてきたのは、きっかり3カ月前にあたる6月末だった。

 この管理会社には20年前から管理を委託していたが、委託費は当時の安い料金で据え置かれたまま。「早く手を引きたかったのだろう」と男性。急いで後継の管理会社を探し、10月下旬に地場企業への委託が決まった。

管理会社からの「三行半」が続出

 今やマンション管理組合と管理会社の立場は逆転した。

 これまでは管理組合が管理会社を選ぶ側にあった。「お前たちの代わりなんて、いくらでもいる」。管理会社に捨てぜりふを吐いて、リプレース(管理会社の変更)を実施した管理組合もかつてはあった。

 だが現在は、管理会社が管理組合に「三行半(みくだりはん)」をつきつけるケースが続出している。

 週刊東洋経済11月8日発売号では「マンション管理 異常事態 最新トラブル&解決策15」を特集。マンション管理との付き合い方や悩み多き大規模修繕の最善手などを取り上げている。

 三行半の背景には、管理会社側の厳しい経営状況がある。これまでは委託費を安く提案し、管理戸数の獲得に邁進してきた。管理を担えば修繕工事など派生する仕事の受注も見込めるためだ。

 ただ、ここ数年、人件費や資材費の上昇で管理会社の安値攻勢は限界を迎えた。大手管理会社の幹部は「社員の人手が不足しているため、管理戸数を伸ばすよりも、採算の取れる物件を厳選して受託している」と話す。

 変調はほかにもある。マンションに襲いかかる「2つの老い」だ。

 まず、マンションの老朽化が進行し、1回目の大規模修繕工事のメドとされてきた築12年を経過したマンションが全体の8割に達している。同時に、管理組合の理事の引き受け手も高齢化しており、「理事長の後継者がいない」と悩む管理組合が増えた。

 さらに、新型コロナウイルスの影響で、新たなトラブルが多発している。

 「風鈴がうるさくて仕事に集中できない」「掃除機の音がうるさい」「ドライヤーの音が気になる」

 騒音は昔からの典型的なトラブルだが、住民の自宅滞在時間が増えたことで神経質な反応がみられるようになった。

 タバコの煙を巡るトラブルや、共用部分の置き配問題などが深刻化しているマンションも少なくない。

上がり続ける管理費や修繕積立金

 管理費や修繕積立金も上がり続けている。賃金の上昇や資材価格の高騰が背景にある。東京カンテイの調査によると、2020年の首都圏マンションの管理費、修繕積立金はともに、6年前に比べて約20%も上昇している。

 急激な環境の変化に、国や業界団体も対策を打ち出す。国土交通省は今年6月に「マンション標準規約」を改正し、WEB総会や置き配の留意事項を明確にした。

 国交省は来年4月にも「管理計画認定制度」を実施し、長期修繕計画の作成など管理組合の運営状況について適否を判断する。マンション管理業協会も来年4月に、管理組合の運営状況を点数化する新制度を実施する。

 こういった新制度への準備を急ぐ管理組合は多いが、新制度の乱立に戸惑いを見せる関係者もいる。

 マンション管理のあり方が大きく変わろうとしている。この「転換期」にどう対応するべきか。マンション住民や管理組合、そして管理会社など関係者は柔軟な姿勢で対応することが求められる。

『週刊東洋経済』11月13日号(11月8日発売)の特集は「マンション管理 異常事態」です。

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