実質半年間で契約951件…トヨタKINTOが大苦戦しているワケ

小沢コージ【クルマは乗らなきゃ語れない】

高齢者クルマ対策の究極か? トヨタのサブスクKINTOの本質

 今、テレビを見るとやたら出てくるトヨタKINTOのCM。主演の松田翔太が「もろもろ込みだから、むしろアリ」とドヤ顔するのが動画の白眉だが、裏でありありと伺えるのは、トヨタのチャレンジと苦悩ぶりだ。

■トヨタの国内年間販売台数の1%以下

 KINTOはトヨタが日系大手メーカーとして初めて取り組んだ本格サブスクリプション=定額制サービスだ。そもそも自動車メーカーが将来モビリティプロバイダー(移動提供者)になることを睨み、2018年末に豊田章男社長が「いつでもどこでも気軽に移動できる筋斗雲」にヒントを得て命名したと言われているが、ぶっちゃけ大苦戦中。

 筆者は昨年末、株式会社KINTOの小寺信也社長に単独インタビューを行っているが、驚いたのはまず契約数。KINTOは19年2月から都内で限定展開、7月から全国展開しているが、11月までの半年チョイでの契約数は951件! 今、トヨタは国内で年間160万台を売ってるわけだから、ざっくり1%以下。比べると北米では、自動車販売におけるリースの割合が約3割を占めるというから、まだ全然なのである。

「ディーラーでお客様の話にのぼらない」

 実際、小寺社長からは、率直な苦悩が漏れてきた。

「まずクルマをサブスクリプションで借りるということ自体、意味がほぼ理解されてない。だからそもそもディーラーでお客様の話にのぼらないんです」

 サブスク=定額というのは分かるはず。だが、単純に価格が高いと感じてしまうのだ。例えば2月のトライアル時の目玉は、新車のプリウスでもろもろ込みで月額5万円弱。頭金などは一切要らないシステムで、これは年間3万9500円の自動車税、安くても3万円以上かかる自動車保険、3年目に必要な車検代を考えるとトントンか安いくらい。特に最初の1年だけ乗って売ることを考えると、絶対に安い。

 なぜなら、クルマは値落ちするからだ。300万円を超えるプリウスなら、初年度に100万円は値落ちするし、3年後に売ったとしても、残るのは半額の150万円ぐらい。3年乗っても年間50万円づつは落ちてしまう。

 一方のKINTOは月額5万円で年間60万円。残りは駐車場とガソリン代、高速代しかかからない。さらにキモは、含まれる任意保険で、これがあまり書かれていないが、万が一クルマをぶつけても、保険の等級が下がらない。それどころか全損しても契約が終わるだけ。

最大のネックは「価格感」

 そういう意味でKINTOは、リスクに非常に強いシステムなのだ。特に車両保険込みで年間保険料20~30万円はかかる10代、20代の若いドライバー、いつクルマから降りるかわからないがハイテク安全機能付きの新車に乗らせたい70代以上のドライバーには最適。

 だが一般ユーザーはクルマを買う際、ランニングコストや値落ちをほぼ考えないのと、何よりもサブスクと聞くと月額980円聴き放題のAmazon Musicや月額880円のNetflixを想像する。そう考えると月々5万円…高い!と反応しちゃうのだ。

 よって、年末に4万円を切るさらに安いトヨタ・ライズが追加されたが、果たしてどうなるか? ホンダも中古で月々3万円を切るサブスクを投入予定。普及のキモは説明と値頃感。果たしていつ頃、日本のサブスクはブレイクするのだろう?(小沢コージ/自動車ジャーナリスト)

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