客に媚を売っても客来ず

今夏の参院選に向けて、民主党が民進党と改名した。筆者は政治評論家ではないし、改名の裏事情など知るよしもないが、マーケティングの研究者という立場からすれば「いかがなものか」と思わざるを得ない一件があった。

それは、「党名の公募」である。党名とは党の顔であって、政治家が命を賭して守るべき理念の象徴ではないか。などと堅いことを言うつもりはないが、こういう一大事を「客任せ」にしてしまえば、とりあえず「権威」が失墜してしまう。

「権威」はなぜ大切なのか。たとえば何か判断を下す際、「権威」の言うことを聞いて済ませば、圧倒的な時間と労力、そして何よりも思考の節約になる。人は何でもかんでも事情通になるわけにはいかないから、やむを得ないことである。

というわけで、ショーン・マクアードル川上氏の学歴が嘘だったとわかった時、われわれは非常に困惑した。彼の「権威」を担保していたのはほぼ唯一「ハーバード大学MBA(経営学修士)」という学歴だったのだから、それを検証せずに起用した番組の罪は重い。

© Business Journal 提供

政治にしても、われわれは政策を一つひとつ検証できるほど暇ではない。だからこそ政治家は「権威」でなければ困るし、党名くらい自分たちで決めるべきではないか。

●マックの「禁じ手」

それにくらべれば他愛もない話だが、マクドナルドも「禁じ手」をやってしまった。「名前募集バーガー」である。

最終的に「北のいいとこ牛っとバーガー」と決定。そのセンスの良し悪しは置くとして、テレビコマーシャルでお笑いタレントのバカリズムに言わせた科白がふるっている。

「まあ、あるっちゃ、あるんじゃないですか」

筆者は非常な違和感を抱き、しかし食べなきゃ何も言えまいというわけで、マクドナルド秋葉原駅前店におもむいた。店内はなかなかの混み具合で、少なくとも 店内の混雑ぶりを見れば、マクドナルドが不調とはにわかに信じがたい。もっとも観察してみれば、客の大半はスマホの画面に見入る20〜30代の男性で、ど うやらWi-Fi目当てのようだ。

さて、「北のいいとこ牛っとバーガー」をさっそく食べてみた。

キャッチコピー は「北海道産ほくほくポテトとチェダーチーズに焦がし醤油風味の特製オニオンソースが効いたジューシービーフバーガー」と長い。要は牛肉のパテとジャガイ モなので素材的な新味に欠ける上、原価削減の意図が透けて見える。食べた感じとしてはボリューム感に乏しく、決して不味いとは思わないけれどもおいしいと も思えない。

結局のところ名前を公募してしまった時点で「失敗」だったと思えてならない。フードサービスの商品も権威であることを強く求められる。商品名を素人に考えさせるなどという、沽券にかかわる真似をしてはならないのである。

スターバックスを見ればわかる。商品名はわかりづらくて客に媚びるところがなく、むしろ「上から目線」とさえ思わせる。だいたいあのうす暗い店内で、小さ くてカタカナだらけのメニューを表示している点、高齢者の便宜を無視しているとしか思えない。しかし、客は権威の前にあっさりと脱帽し、財布のひもを緩め てしまう。

いまマクドナルドに必要なのは、「客」の顔色をうかがって右顧左眄、右往左往することではなく、自分たちの信念を、自信を持って訴えることだと思う。失墜しかけている権威を持ち直させるには、それしかあるまい。
(文=横川潤/文教大学准教授、食評論家)

タイトルとURLをコピーしました