宮古島「地価500倍」のバブル 土地という土地が「東京」に買い占められている

沖縄県宮古島に新しい空港がオープンした。みやこ下地島空港だ。日本には既に97もの空港がある。公共投資の無駄遣いと揶揄されてきた中で、またもや、と思われるかもしれない。実は、みやこ下地島空港はパイロットの訓練用の飛行場であったものが、今般あらたに民間用にも開放されることになったのだ。

 滑走路の全長はジャンボジェットも離着陸できる3000m。既存の宮古空港(滑走路全長2000m)とあわせて、島には2本の滑走路がある。陸路がない宮古島にとっては2つの空港を持つことは受け入れ態勢の大幅な増強になるだろう。

パイロットの島がリゾートとして注目される理由

 みやこ下地島空港があるのは、名前のとおり下地島だ。ひとくちに宮古島というが、宮古島市は宮古島、来間島、伊良部島、下地島、池間島、大神島の6島から構成される。下地島は宮古島の西に浮かぶ伊良部島にほぼ接続しており、これまでは交通の便も悪く、訓練でやってくるパイロットたちだけに知られていた島だった。

 ところが、2015年1月に宮古島と伊良部島を繋ぐ伊良部大橋が開通すると、島の様相は一変する。伊良部大橋は車のCMでも話題になった壮麗な橋で、全長3540m。無料で渡れる橋としては日本最長を誇る。橋は新しい観光スポットになり、島同士が繋がることでリゾートとしての新たな可能性が開かれたのだ。

 みやこ下地島空港は従来の訓練用に加え、国際線、国内線の離発着が可能となり、さらにはアジアや欧米からのプライベートジェットを迎えることができるようになった。空港の運営権は三菱地所が受託。19年度は10万人、20年度には30万人の利用を見込む。

沖縄の「田舎」に空前のホテル新設ラッシュ

 宮古島は沖縄の主要な島の中で、これまではもっとも「田舎」と呼ばれてきた。沖縄本島はもとより、石垣島よりも開発は遅れ、島の産業はサトウキビやゴーヤの栽培といった農業が主体で観光は二の次だった。島は閉鎖的で移住者などが来ようものなら、本土からの「流れ者」ではないか、といった疑いの目つきでしか見られてこなかった。実際、14年度で観光客数は43万人にすぎず、同年度の石垣島が110万人強であったのとは対照的である。

 ところが伊良部大橋が開通した15年度以降、観光客数は増え続け、17年度は98万8000人に膨れ上がった。18年度は110万人から120万人になったと予測されている。

 観光客の急増で大問題になったのがホテルや旅館の不足だ。17年度末で島のホテル、旅館数はわずか46棟2432室にすぎない。ここに100万人を超える観光客が押し寄せたのだからたまったものではない。

 そしてこの激変ぶりを東京の大資本が見逃すはずはない。島は空前のホテル新設ラッシュとなった。これまで島のリゾートホテルといえば、84年にオープンした東急リゾートや93年にオープンした、オフィスコーヒーサービスで有名なユニマットグループが運営するシギラリゾートくらいで他に見るべきホテルは見当たらなかった。

1泊10万円を超える超高級ブティックホテルもオープン

 18年になると小田急電鉄系のUDSが運営するホテルローカス(100室)やフェリスヴィラスイート伊良部島・佐和田(8棟)、森トラストと外資系ホテルのマリオット・インターナショナルが運営するイラフSUIラグジュアリーコレクションホテル沖縄宮古(58室)などが続々とオープンした。

 今年はさらにトレーラーハウスを利用したグランピングリゾートから1泊10万円を超える超高級ブティックホテルまで様々なカテゴリーのホテルのオープンが控えている。

 ホテル開発ラッシュは留まるところをしらない。特に下地島に隣接する伊良部島は大人気。島内のあるリゾート予定地では、せいぜい坪あたり2000円だった土地が、現在は坪あたり100万円で取引されており、わずか数年で地価は500倍に跳ね上がったという。島の海岸という海岸が東京などの大資本に買い占められ始めている。

工事現場の日当が5万円を超えた

 短期間にこれだけの開発計画が持ち上がった結果、島の景気は活況となった。建設資材などはほとんどが島外から運び込まれるのだが、建設計画が多すぎて資材の搬入が間に合わない。資材だけではない。建設作業員が全く不足してしまった。通常建設作業員は日当も安く、島の中だけで調達できてきたのだが、人手不足からコンクリート型枠工の日当は5万円を超えた。この金額は東京の工事現場の2倍に相当する。この金額につられて、大阪や東京から建設作業員が飛行機に乗って現場にやってくるという、信じられないような光景になっている。

 島にやってくる作業員たちは、島のアパートを借りる。ところがアパートは新設されたホテルの従業員や好景気を当て込んで雨後の筍のようにオープンした居酒屋のバイトやキャバクラの女の子たちで満杯。これに最近とみに増えた移住者たちのニーズが重なって全く空室がないという異常な状況に陥っている。実際に島の賃貸マンションの家賃はワンルームで3万円程度だった相場がここ4、5年の間に5万円を超えるに至っている。

 島の不動産屋はさぞかし儲かっているかと思いきや、空室がないためにせっかくやってくるお客さんに紹介できる物件が払底してしまい、商売あがったりの状況だという。中には新築でできるマンションの完成を待ち焦がれて簡易宿所に寝泊りしている移住希望者まで居るという始末だ。

 そして問題が深刻なのが、この状況がすべて、まだ「みやこ下地島空港」がオープンする前の姿であることだ。三菱地所の目論見通りであれば20年度にはさらに30万人が加わる。宮古島では島内一の港である平良港に20年度までに15万トンまでの大型クルーズ船が接岸できる埠頭が建設中だ。17年度で大型クルーズ船から平良港に降り立った外国人観光客は36万人。空、海での迎え入れはこれからも大幅増が予定されている。

 加えて、島内には台湾の長栄大学が分校を開校する計画が着々と進んでいる。18年11月には分校の開設準備室にあたる日本教育センターが開設された。計画ではこの大学に年間1000人程度の学生が派遣されるという。賃貸アパートやマンションなどいったいどれだけ作れば、際限なく増え続ける需要を吸収できるのであろうか途方に暮れてしまう。

「台風の島」に建設される木造の賃貸アパート

 バブルに踊る島では新たに商売をする者が現れる。最近、島の活況に目を付けた東京方面のある業者が島で買い漁った土地に、5年間にわたって賃貸アパート130棟、簡易宿所70棟、計1500室相当を200億円の事業費で建設することをぶち上げた。そしてこのうちの7割を個人投資家などに向けて投資用不動産として販売するという。

 宮古島の家は、沖縄の他の島と同様、そのほとんどが石造りだ。ところがこの業者は建設費を安くし、工期を短くするためにすべて木造にするという。それだけ島での需要は逼迫しているのだ。

 だが、島の人から見れば「島のことを何にもわかっちゃいない」という。宮古島は台風銀座と呼ばれるように毎年大型の台風が島に来襲する。台風による強風は東京で経験するようなレベルではなく、命の危険を感じるほどだという。

「木造だなんてあんた、まあ家ごと吹っ飛ばされるのと違うか。まるで三匹の子ブタだぜ」

 と冷笑する。

 たしかにシギラリゾート内に残る「うえの文化ドイツ村」では、木造のチケット売り場が台風で2階部分が吹き飛び、なんとも妙な形の建物になって残っている。

 多くのよそ者が出入りし、島のことをよく理解せずに「やらかし」をすることで島の平和は今後も保つことができるのであろうか。

宮古島まもる君は島を守れるのか

 宮古島がまだのどかな「田舎」だったころのことだ。宮古島の主要道路の道端に建つ警察官マネキンが話題になったことがある。マネキンの警察官はドライバーが本物と間違えてあわててスピードを落とす、注意深くなるなどの効果を狙って、一時は全国に広まった。ところが96年に設置された、ここ宮古島のマネキンは、警察官の顔が白粉を塗ったように真っ白で赤い唇が妙にシュールで、これが「キモイ」ということで、全国的に話題になったのだ。しかも“彼”には「宮古島まもる」という立派な名前がついている。

 この宮古島まもる君は島では知らぬ人がいない人気者。島内で現在確認されるだけで19体が道端で警護にあたっているが、これらはみんな兄弟や親戚でそれぞれに「すすむ」「こうじ」などの名前が付けられている。またこれとは別に「まる子」という妹も1体存在する。最近では「リアルまもる君」も登場する人気ぶりだ。

 リアルまもる君

今日から4月ですね!

宮古島の4月一発目のイベントといえば!!??

そう「海開き」!

ということで今週の日曜に与那覇前浜ビーチで第41回宮古島の海開きイベントが行われますよ!

もちろん私も出動予定です!

たくさんのご来場おまちしております~♪ https://t.co/9926Wu93CZ pic.twitter.com/4ArlTCLL0r — リアルまもる君 (@realmamorukun) 2019年4月1日

 2009年には島出身のシンガーソングライター下地暁さん作曲の「宮古まもる君のうた」が、地元ローカルユニットの少女パニパニJrのデビュー曲となり、翌年には携帯着うたサイト「沖縄ちゅらサウンズ」で10週連続1位にも輝いた。かわいい少女2人がステージで踊ると島の人たちも一斉に踊りだす。まもる君は島のヒーローなのだ。

 さて、バブルの匂いに引き寄せられて多くの怪しい輩が跋扈し始めた宮古島。島のヒーローまもる君は果たして島を守ることができるだろうか。島の動向に目が離せない。

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