東日本大震災と福島第1原発事故を機に宮城、福島の両県でスポーツクラブの入会者が増えている。「震災で体力不足を痛感」(宮城)「屋外運動は放射能が心配」(福島)と理由はさまざま。地域の絆が分断された避難者が交流を求める目的で入会する例もあるという。
福島県飯舘村の主婦佐藤フミ子さん(69)は週4回、福島市のセントラルウェルネスクラブ福島店に通い、室内プールで泳いでいる。原発事故で全村避難を強いられ、福島市の借り上げアパートで暮らす。
「知り合いがいない土地でうつうつと過ごす姿を見かねた娘に勧められた。友だちもできて良かった」と話す。
福島店は2012年度、会員数が大人、子どもとも前年度より10%増えた。東北の直営8店舗の中で最大の伸び率を示す。小林修店長は「子どもの入会は、放射能への懸念から『屋内で運動させたい』という保護者の考えが背景にある」と語る。
東北で8店舗を展開するルネサンス(東京)も盛況だ。東北の12年度末時点の会員数は前年度比8.1%増。全社平均の1.4%増を大幅に上回り、地方ブロック別で最高の伸び率を示した。藤沢豊樹経営企画部長は「仙台と福島が好調で上昇傾向が続いている。仙台圏は体力低下、福島は屋外運動の回避が主な入会の理由」と言う。
津波被災地の40代の男性会社員は「波に襲われ、走って逃げ切れない体力のなさを痛感した。体力をつけ、万一の時に備えたい」と入会理由を明かす。震災で帰宅難民が問題化した関東圏でも「体力づくり」を理由とした入会が増えている。
経済産業省によると、全国のスポーツクラブの売上高は震災前の10年が2959億円で、12年は2925億円とやや落ち込んだ。スクールを含めた会員数は約290万人で震災前後で大きな変化はない。そうした中、東北の主なスポーツクラブ関係者は売上高、会員数とも3~10%上昇したと口をそろえる。
仙台圏を中心に東北の主なスポーツクラブが加盟する「みちのくフィットネスクラブ協会」(仙台市)の事務局は「津波から全力疾走で逃げられるか。震災を機に健康や体力への意識が高まっている。仙台圏で新規オープンしたクラブの会員獲得も順調で、会員は今後も増えるだろう」と予測している。