宮城県南三陸町の町地方卸売市場で、旬を迎えている秋サケがほとんど水揚げされていない。海水温の上昇などでここ数年極度の不漁が続いていたが、今季は9月25日に刺し網漁が解禁されて1週間たってもまだ6匹(計16キロ)。1日1匹にも満たない状況に、市場には驚きと諦めが交錯する。
3日、三陸沖で操業した刺し網漁船が志津川漁港に8隻入港したが、秋サケの水揚げは2隻の2匹だけ。うち1匹は今季初めての雌ザケだった。
午後の競りに参加した仲買人は「いくら何でもこんなに揚がらないとはびっくり」「最悪の状況。今は刺し網を入れても他の魚しかかからないようだ」と一様にため息をついた。
かつて町の主力魚種だった秋サケの年間水揚げ量は東日本大震災後、2143トンを記録した2013年をピークに減少。ここ数年は激減し、21年は24トン、22年はわずか19トンだった。
それでも昨年の解禁初日は22匹(計69キロ)の水揚げがあったが、今季は初のゼロ。市場によると燃料費も高騰しており、まだ刺し網漁を始めていない「様子見」の漁船が多いという。
県沿岸部の秋サケ刺し網漁は11月20日まで続く。市場で競り人を務める県漁協志津川支所の高橋義明課長(41)は「もはや三陸産サケを店頭に並べられなくなっている。今後も期待できないだろう」と話す。雌ザケから取るイクラの品薄にも拍車がかかりそうだ。
町は町内の河川と海で採卵した種卵や他道県からの移入卵を育て、春先に河川に稚魚を放流する人工ふ化放流事業を続けるものの、近年は効果が出ていない。
佐藤仁町長は2日の定例記者会見で「海の状況は厳しいが、放流しなければ帰ってこない。貴重な種卵を大切に育てたい」と説明。放流事業は当面続ける考えを示した。