宮城・南三陸の歌津中「少年防災クラブ」に総務大臣賞 自主的な避難所運営に評価

宮城県南三陸町歌津中(生徒90人)の全校生徒が所属する「少年防災クラブ」が、2022年度の「優良な少年消防クラブ表彰」で総務大臣賞を受賞した。生徒が自ら考えて災害発生時の避難所運営に臨む活動など、地域のリーダーを育てる独自プログラムを続けていることが高く評価された。

 歌津中の少年防災クラブは東日本大震災直前の11年2月に設立。地元消防や地域住民の協力を得て、12年度から救命救急講習、がれき撤去や消火の訓練、野外炊飯など多彩な活動を行っている。

 集大成として取り組むのが秋の「避難所運営活動」だ。地域を大津波が襲ったとの想定で生徒は徒歩で学校に集まり、自分たちで役割分担して避難所運営や炊きだしを実践。教員と住民は指示を出さず、避難者役となってけがや発熱で倒れたり、火災を起こしたりして生徒に対応させる。

 3年時にクラブの代表委員長を務めた後藤心夢(ゆめ)さん(15)=気仙沼高1年=は「地域の方々との支え合いの大切さ、相手と意見を共有して人をまとめることなど多くのことを学べた」と振り返った。

 活動に協力した南三陸消防署歌津出張所の及川孝前所長(47)は「学年が上がるにつれ、生徒が意欲的になるのを力強く感じた」と語った。

防災主任の佐藤教諭「ここで生きる力を」

 歌津中の少年防災クラブを指導するのが、防災主任の佐藤公治主幹教諭(59)だ。佐藤さんは避難所運営活動を考案し、防災教育が持つ可能性を広く伝えようと論文まで執筆。「地域で生きる力を自ら身に付けてほしい」。強い信念は、震災後に目にした子どもたちの姿がきっかけだった。

 町出身の佐藤さんは07年4月、歌津中に赴任した。同校では元々、1年生が炊きだしや非常用トイレ作りなどの防災訓練を実施。10年度にクラブを立ち上げることになり、佐藤さんが担当となった。

 「いつか来る宮城県沖地震に備えるのが自分の役割」。そう考えていた11年3月、東日本大震災が起きた。「家族を亡くした生徒がいる。今更防災訓練などやりたくないだろう」。内心ではクラブの活動意義を見いだせなくなっていた。

 同年7月、全校生徒の前でクラブの説明をした佐藤さん。うなだれながら聞く生徒の心中を推し量り、「このまちが好きな人は?」と尋ねた。恐らく誰も反応せず、「そうだよね、でも大事だから頑張ろう」と言葉を継ぐつもりだった。

 実際には生徒の大半が突然顔を上げ、次々と手を挙げた。みんな真っすぐに瞳を向けてきた。予想外の光景に圧倒された。

 「町で大変な目に遭ってなお、子どもたちは町を好きでいる。彼らがここで生きる力を身に付けられる防災教育をしたい」。佐藤さんは決心した。

 避難所運営活動は、生徒に自主的な行動を促すのが特徴だ。「防災の知識を一方的に教えるだけではいけない」という問題意識がある。地域のつながりを感じられるよう、住民の参画も重視。隣の志津川中に転勤した13~18年度も含めて活動を実施した。

 防災教育を根付かせようと、佐藤さんは震災前後の全国の防災教育の事例などを分析しつつ、21年度までの活動を振り返って教育的効果を訴える研究論文を執筆。昨年3月、兵庫県立大環境人間学科の博士号を取得した。

 佐藤さんは「防災教育は子どもたちを地域の一員として成長させ、災害時に限らず地域が立ち直る力も高める。防災の専門家でなくても、日々子どもたちと接する学校が担うことに意義がある」と力を込める。

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