国土交通省は18日、宮城県北を流れる吉田川と、吉田川に合流する25河川の計26河川を「特定都市河川」に指定した。流域全体で水害対策に取り組む「流域治水」に法的な枠組みが適用され、堤防強化などハード整備に国の予算が重点配分される見通し。東北での指定は初めてとなる。
国や住民ら、流域対策協発足へ
一体的に流域治水を進めるため、宮城県も同日、県管理の高城川など計10河川を特定都市河川に指定した。流域面積は吉田川流域が大和、大郷両町など10市町村にまたがる約350平方キロ、高城川流域は大崎市や大郷町など6市町村に広がる約120平方キロ。
今後、国や県、市町村、住民らでつくる流域水害対策協議会を発足させ、具体的な対策を盛り込んだ流域水害対策計画を策定する。
河道掘削や遊水池整備、内水浸水に対する排水機場の機能強化などハード整備を推進。一時的に雨水をためる「貯留機能保全区域」に農地を指定したり、浸水リスクの高い地域を「浸水被害防止区域」として住宅建築などを許可制にしたりすることも想定する。
吉田川は2019年の台風19号で、決壊1カ所を含む33カ所で越水し、流域約5540ヘクタールが浸水した。22年7月の記録的大雨でも被害が発生した。
水との闘い「新たなページへ」 住民ら水害対策加速化に期待
吉田川と高城川が18日、東北初の「特定都市河川」に指定された。2019年10月の台風19号など、幾多の水害を乗り越えてきた大崎市鹿島台の住民からは「水害対策が加速化する。開拓400年の歴史の新たなページが開かれた」と歓迎する声が上がった。(小牛田支局・横山浩之、大崎総局・村上浩康)
江戸時代初期まで広大な湿地帯だった吉田川流域の歴史は、水との闘いの歴史だ。川が立体交差するサイホン、合流地点をずらす背割堤といったさまざまな治水技術を施し、国内有数の穀倉地帯を築き上げて以降も、田畑を守る人々の闘いは続いた。
1986年の8・5豪雨で吉田川は4カ所で決壊し、1731戸が床上・床下浸水。その後に整備された二線堤に代表される「水害に強いまちづくりモデル事業」は、流域治水を先取りした取り組みとされる。旧鹿島台、松島、大郷の3町は全国唯一のモデル地区となり、関係機関や住民がソフト対策を合意の下で進めることを盛り込んだ。
19年の台風19号では、志田谷地地区などの678戸が浸水、5538ヘクタールの冠水解消に10日以上を要した。国、県、市町村が新たなプロジェクトに着手した後の22年7月にも記録的な大雨があり、決壊は免れたものの、姥ケ沢など3行政区が内水氾濫による浸水被害に見舞われた。
特定都市河川の指定により、今後は、国や大崎市などでつくる流域水害対策協議会が8月に発足し、河道掘削などのハード整備をはじめ、貯留機能の向上やリスクを踏まえたまちづくりなどソフト面も含めて、所管省庁の枠を超えた包括的な施策を議論、推進する。
一方で、3行政区が内水対策を話し合った6月の会合では、早急な具体的対策や完了時期の明示を求める声が続出した。関係者が利害を調整し、時には田んぼダムや遊水地による貯留機能の拡充などで不利益も分担する必要がある流域治水の難しさをのぞかせた。
鶴田川沿岸土地改良区(大崎市)はこの1年で4回、流域治水の勉強会を開いた。千葉栄理事長は「関係者とより協力して課題を一つずつ解決し、『みず』から守るモデルを発信したい」と機運向上に期待する。
市内では昨年7月の大雨で決壊した名蓋川を含む多田川流域でも特定都市河川指定を視野に入れた議論が進む。大崎市の伊藤康志市長は「災害が起こることを前提に、被害を最小限に抑えるには流域全体の総合力が必要。上流と下流が恩恵もリスクも分かち合って支えきる文化を醸成していく」と語る。