宮城県石巻市の県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)が、10月のリニューアルを機に歴史文化を学習する拠点機能を高めている。各地のキリシタン史跡を巡るツアーを試行。実物大の木造帆船などの展示中心だった機能を広げ、史跡や施設をつなぐツアーなどを開催して幅広い客層の呼び込みを狙う。
1泊2日のツアー「旧仙台藩領キリシタン殉教遺跡巡礼ルート」は仙台市発着で行われ、県内外の10人が参加した。11月22日、サン・ファン館で江戸時代史が専門の平川新・館長の講座を受けて館内を見学。23日は岩手県一関市藤沢町大籠(おおかご)のキリシタン資料館、宮城県登米市東和町米川のカトリック米川教会などを視察し、地域に残るキリシタン文化に触れた。
仙台藩の製鉄に携わるキリシタンは、幕府の弾圧により、大籠で約300人、米川で約120人殉教したとされる。今も刑場跡や墓のほか、ゆかりの碑や寺などが残るが、キリシタン文化としての全国的な知名度は高くない。
サン・ファン館では、老朽化した実物大の復元船「サン・ファン・バウティスタ号」が解体されたが、リニューアルで展示内容が一新された。
4分の1サイズの後継船にスマートフォンなどをかざすと、拡張現実(AR)技術によって帆を張った姿を見ることができる。色鮮やかな映像を投映するレリーフなどを導入し、17世紀の世界地図を表現した地球儀、遣欧使節を率いた支倉常長がローマ教皇に謁見(えっけん)する場面を描いた。
サン・ファン館は今後、展示中心だった博物館の機能に、歴史文化の学習や観光の拠点性といった内容をプラスし、ストーリー性を持たせたツアーを実施する方針。見学者だけではなく、歴史の愛好者や研修にも客層の幅を広げる。
運営する慶長遣欧使節船協会は観光庁の地域観光新発見事業に応募し、補助を受けた。試行ツアーへの参加者の意見などを踏まえて改善を加え、来年度にはツアー商品として売り出す方針。
講演などを通し、貿易のために欧州に使節を派遣した仙台藩祖伊達政宗の先見性や偉業に目を向けてもらうほか、使節の歴史的検証も進めている。
川村満副館長は「単に展示を見てもらうだけではなく、歴史や文化の学習、教育研修などができる機能を高めたい。平日もサン・ファン館に来てもらえるよう定期的なツアー商品を目指したい」と話している。